番外編 集いし宿敵たち
フィン達3人が大都市アラーラで孤児たちの面倒を見始めた頃――。
――――とある街の、ある酒場にて。
「はーーっ!! やってられないわよ!!!なんなのよ!!!!」
フードを被った女性の、怒気を孕んだ声が突っ伏した机へとこだまする。
手には大ジョッキの蜂蜜酒、女がヤケ酒に走っているのは誰が見ても明らかだった。
……しかし、そんな彼女のことなど誰も気にしない。
周りにはお互いに酒を盛り、今日も頑張ったと励ましあう者や、他の者に挑発されやれ喧嘩だー!などと騒いでいるものばかり。
誰かが喚いていることなんて日常茶飯事である。
惨めに喚く彼女は、そんな自分を歯牙にもかけないまわりの人間たちに苛立ちを感じているようだった。
もうすべて憎々しく、忌々しい……と。
「ヴェルミーリョ……あいつさえ居なければ……!!」
怒りで我を忘れた彼女かフードがはだけ、特徴的な黒髪と鋭い目があらわになる。
――彼女の名は、イレーネ・ニエロ・プラーヴァ。
『取り込んだ毒を生成する』というチートスキルを手に入れ転生した先の家の乗っ取りを画策したものの、
同じ異世界転生者であり、かつ同じ家に生まれてしまったヴェルミーリョにその野望を打ち砕かれた……異世界ドロップアウトガールである。
ついでに言えば、親の温情で修道院送り程度の処罰に留めてもらったにも関わらず、逆上して脱走した……お先真っ暗異世界ガールでもある。
「あいつに邪魔されてなければ……私は今頃あの家を手に入れ、チートスキルで貴族の逆ハーレムを作ってたはずのに……ああもう!」
「………………ここ、よろしいかしら?」
外套を羽織った女が、この世のすべてを恨むような目で酒をあおり半目でキレているイレーネに対して、全く遠慮せずに平然と話しかける。
「お好きにどうぞ!」
「……ふん、ありがとうございますわ」
ぶっきらぼうに答えるイレーネに対し、ほんの少しだけ声を荒げながら外套の女が席につく。
彼女も同じように酒を頼み、ぐいっと一気にあおって……物凄くふてくされたような顔をした。
「何? 私になにか不満でもあるっていうわけ?」
女の態度に虫の居所が悪くなったイレーネはもともと鋭かった目つきを更に鋭くさせる。
なによこの女…………私のスキルでわからせてやろうかしら?
そんな風にイレーネが突っかかると、外套の女も自分と同じようなキツイ目線を向けてくる。
「フン!別に貴女に怒っているわけじゃありませんわ! 私をこんな……こんな境遇に陥れた奴にムカッ腹が立って仕方ないってだけです!!」
「…………へぇ、何があったのよ?」
誰かに貶められたという、自分との意外な共通点にイレーネはほんの少しだけシンパシーを感じ、溜飲を下げ質問する。
「……わたくし、住んでいた村での地位を奪われ……挙句の果てに追放されましたの!! それもこれも……みんなみんなあの小娘!! フィンのせいですわ!!!!」
…………そこからは長かった。
アグラリエルと名乗った外套の女は、どんな思いで自らが住んでいた村を終われ……追放されたかをドラマチックに語り聞かせ、
話を聞いたイレーネもまた、アグラリエルの境遇に他人のこととは思えず話を聞き入ってしまい、時には涙し、怒りを顕にし…………そして話が終わる頃にはもう、ふたりは友となっていた。
ついでにべろんべろんにも出来上がっていた。
「私たちをこんな目に合わせた奴らに……絶対復讐してやるわよーーッ!!!!」
「そうですわ! 復讐ですわァーーーッッ!!!!」
「復讐バンザイ!!!」
「バンザイですわ!!!!」
「……………………すみませんあの、ちょっとよろしいですか?」
「もちろんいいわよ!! 座りなさいー!!」
「お酒はお飲みになる!? なりますわよねぇ!!!」
「いえあの私は……人探しをしていて」
「人探し!! 私たちも行方をくらました奴らを探してるのよ!!! これってもう、何かの運命じゃないかしら?!?!」
「わたくしもそう思いますわ!! 貴女お名前は!?」
「え、ええと……私はヒータと申します。まおうさ……マオという私の主人から、グリムという青年を探すように言われていて……あの、心当たりがなければ私はもう行きますので」
「何言ってるのよ!! みんなで情報収集すれば3倍早く見つかるじゃない!!」
「そうですわ! わたくしたちでパーティを結成しましょう! 是非そうしましょう!!」
「そ、それは確かにいい案かもしれませんが……」
「ほんとにいい案よ!! さすがはアグラリエルね! これからよろしくヒータ!」
「ええ…………」
こうして1人の人間に、人に扮したエルフと魔族……ヴェルミーリョ、フィン、グリムとそれぞれと接点のある3人は奇しくも同じテーブルで出会い、
3人と同じように、別種族同士で一つのパーティを結成するのであった――。




