アルカのひみつ(終)
――翌日。子どもたちはアルカとフィンによって屋敷の庭に集められていた。
「何が始まるんだ? フェイシア、おまえなんか聞いてるか?」
「聞いてない……けど、なんとなく想像はつく…………かも」
「それって――」
ギゼルがそう言いかけたところで、皆の前にアルカとフィンが出てくる。
アルカはみんなの前に一歩出ていき、深呼吸してから子どもたちへと向き直る。
「おはよう、みんな。今日はみんなに話があって…………えっと……」
言い淀むアルカの背中を、そっとフィンが押す。
「……頑張って。」
「…………うん」
小声でエールを送られたアルカは、強く頷き子どもたちを見据えた。そして――
「今日はみんなに大事な話があって集まってもらった…………おれは……お前たちにひとつ、嘘をついてた」
思いもよらないアルカの言葉に「ど、どうしたんだよリーダー!」だとか「おれたちなにか悪いことしたのかな……」などと、子どもたちが騒ぎはじめる。
「あいつ……俺らがあんなこと言ったからって!だからって……!くそっ不器用すぎんだろうが!」
「ま、まってよギゼル!……ちゃんと、最後までアルカの…………リーダーの話をきこう!」
アルカの言葉と子どもたちの動揺に、何を語るか察したギゼルが止めに入ろうとするが、それフェイシアが腕を掴んで必死に制止する。
「フェイシア、お前!!」
「僕たちは……アルカに、男のように振る舞うことを強制した……だからそうしなくてよくなった今、女の子に戻ればいいって……言ったけど! ……でも、アルカがほんとは何をどうしたいか……まだちゃんと聞いてないじゃない!」
「――っ!」
フェイシアの言葉に、思わずギゼルがはっとする。
そうだ、あいつは……女に戻りたいなんて一言も言ってないじゃないか。
それを俺たちはそうだと決めつけ……守ってもらった分、今度は守ってやれると勝手に自分の都合を押し付けていた……。
そう押し黙るギゼルをみたアルカは、一瞬だけ笑顔をこちらに向け……真剣な顔つきになる。
「みんな、聞いてくれ。許してくれないかもしれないけど……おれはお前たちのリーダーになった時から、ずっと嘘をついてきた。……おれは、お前たちにずっと頼れるリーダーとして……男として振る舞ってきた。…………けど……本当は、ほんとうは――――女なんだ。」
周りがざわつくのを、感じる。うまく顔が見れない。
――怖い。
ゆるしてなんか……もらえないかもしれない。
でも、これから先ずっと嘘をついて、嘘をつかないこいつらの相手をし続けていくのは――――もっとつらい。
――だから。
「…………色んな理由があるけど、でも、言いわけはしない。今まで騙していて、ほんとうに…………わるかった…………ほんとうに、ごめんなさい。」
……頭を下げる。
少しの沈黙。しかし、頭を垂れ謝罪するアルカにとって、永遠とも思える時間が流れる。
「……びっくりしたー、おれたちがなにかしたのかと思った!」
おもむろに、孤児の一人が声を上げる。
それを皮切りに他の孤児たちも声を張り上げ始める。
「俺もだ~、っていうか昨日お前の分の飯、横からちょっともらったのがバレて犯人探しが始まるのかと思ってヒヤヒヤしたぜ~」
「おれは兄ちゃん達との約束がホントはもっと違うのかと思ったぜー!! っていうかあれお前だったのかよ!! 許さねぇからな!!」
「ホントだよー、やっぱりこのおうちには住めない。なんて言われたら、もうしんじゃうとこだった!!」
「だなー……っていうかリーダーびびりすぎ! でも女ならしかたねーな!!」
「むしろリーダーが女の子で……わたしはうれしいです、おんなのこ少ないから……」
「ぼくはびっくりしたなぁ! でもびっくりしただけだなぁ~、なにかわるいことだったの?」
「しらねー!でもいいんじゃねーのーーー?」
「…………お、おまえらそれでいいのかよっ!!おれに……おれにだまされてたんだぞ…………?」
謝罪に対してワイワイと騒ぎ出す子どもたちに、アルカは思わず感情をぶつけてしまう。
しかし――
「いままで俺たちはずっとリーダーに助けてもらってきたんだぜ」
「そうだそうだ、おれたち、リーダーのおかげでご飯も服にも困らなかったんだ! おれたちのぶんまで、いつも頑張ってくれてありがとうって気持ちしかないんだぜー!」
「そうだよ!それにきっと、リーダーが男のフリしてたのも私たちのためなんでしょ?」
「そうだそうだー!」
「ありがとー!りーだー!!」
「おまえら……」
大粒の涙がアルカの目からこぼれ落ちていく。
……ずっと言えなかった、流せなかった感情がとめどなく溢れていく。
「りーだーは、りーだーのしたいようにしろー」
「そうだよ! せっかく貧民街から抜け出したんだから、もっとリーダーがしたいことしろー!!」
「わたしたちだって、これからもっとがんばるんだから!」
みんなの前で。
かっこ悪いと思いながらも、感情が抑えられない。
「おれは……」
アルカの言葉に、フィンが優しい目で。
ギゼルとフェイシア、他のことも達もアルカの言葉を聞き漏らさないよう、真剣な顔で耳を傾ける。
「…………おれがこれから先どうすればいいか……何がしたいか、正直まだわからない。
男らしくとか、女らしくとか……今まで考えたことがなかったから。」
そう語るアルカに、ギゼルや一部の子どもたちが一瞬だけ苦い顔をする。
しかしアルカはそんな彼らを見つつ、安心させるように「でも」と付け加える。
「……でも、これから先は考える余裕も、チャンスも……ねーちゃんたちとおまえらから貰ったんだ。
だから、これからは色んなことに挑戦しようって思ってる。……いっぱい迷惑をかけちまうと思うけど…………それでもまた、みんなと一緒にいさせてほしい」
「……あたりまえだろうがよ」
少し間を置いて、一番最初にギゼルが呟く。
後に続く子どもたちもアルカの言葉に賛同の声を上げ、屋敷の周りは子どもたちの祝福の声でいっぱいになっていく――。
「ただ今戻ったッス~! おぉ、なんだかいい感じッスねー……アルカちゃんの件っすか?」
「――なんやきみら、なんかええことでもあったん?」
フィン抜きで薬草納品のクエストに行っていたヴェルミーリョとグリムが帰ってくる。
「……まぁね。ティーンエイジャーの悩みが今ひとつ、解決したところさ」
フィンが嬉しそうに前を指差す。
そこには楽しそうに騒ぐ子どもたちに囲まれ、一緒に笑う一人の少女が…………耐え忍ぶことも背伸びすることも辞め、年相応の子供に戻った、無邪気な少女の姿があるのだった――。
ひとまず区切りのいいところまで(*´ω`*)次からもうちょっとお話を動かしていこうと思います。
いままで右も左もわからずずっと書いていましたが書いてるうちに色んな人と知り合い、
文章の構成とか描き方とか……色々ご指摘していただいたりして、本当頭の下がる思いです。
とりあえず、今までストックを持つことをしてこなかったド素人なので、しばらくはまずストックを貯めれるように充電します(*´ω`*)ノシ




