アルカの力と謎のお貴族様
夜もふけた頃合いに、粗暴な男の叫び声がこだまする。
「侵入者だ!!見つけ出して殺せー!!」
フィンを含めた販売用の奴隷が押し込められた牢屋に向かって、奴隷商人が雇ったであろう用心棒たちが押しかけてくる。
手には松明と武器を持ち、侵入者であるヴェルミーリョたちを探しだし何としてでも始末する、という気概を感じる。
「普通やったらふん縛って憲兵に突き出す所を問答無用で殺しにかかってくるって事は……噂通り、ここの商会は何かしらアカン方法で奴隷さばいたり他にも真っ黒いことやってるんやな」
「つまりどうゆう事なんだ?ヴェルミーリョのにいちゃん」
「ここからフィンくん救っても、自分らが悪いことしてるから国に助けを求められへんって事や!
よしグリムくん!適当に暴れて時間を稼ぐんや!どうせ夜中や、捕まらなけりゃそうそう顔バレせえへん!」
「う、うっす!!」
「ヤバくなったらさっさと逃げるんやで!!」
「オレはどうすればいい?!」
「ワイと一緒にフィンくんを開放しに行こう」
「分かった!」
そう言ってグリムと別れ、2人は牢屋ある建物の反対側、正面入り口へと進路を切る。
「……前になんかいる!」
「ほんまか!何処や?」
正面入り口に続く建物の曲がり角まで迂回した時、アルカが小声でヴェルミーリョにそう伝える。
もちろんヴェルミーリョにはまだ視認できないし、アルカも正面口を見れる位置には居ない。
でも、アルカはなぜか分かるらしい。
「なんで分かるん?」
「壁があったり暗かったり、目隠しされてても……オレがいる場所から少し先まで、何があるか頭に浮かぶんだよ。生まれたときからずっとそうだった。」
アルカの言葉にヴェルミーリョは、なるほどそうゆう『スキル』持ちなのかと納得する。
思えば最初に逃げたアルカに死角からの攻撃を行った際も、軽く避けられていた。
あれはそうゆうカラクリがあったのだ。
「入り口に向かって壁伝いで回ってきたときに中の通路とかもなんとなくわかったぜ」
「他人の動向とか、建物の中がどうなってるかとかも分かる便利なスキルやな。」
「この力があったから、オレは今まで腹の好かせた小さいガキや捕まってボコられた奴らの面倒を見てこれたんだ……もう盗みに使ったりしたくなかったけど…………」
「そりゃ悪いことしたな……でも今回のは気にせんでええと思うで。ここの商会、孤児や亜人の違法売買、国の条約無視、他のライバル商会へ武力をちらつかせて恫喝するとか色々やってるクズ企業や。
ズルして稼いだ金を金をワイらが貰って、結果的に国に返すんやし実質めっちゃクリーンなお仕事なんやで」
「ヴェルミーリョのにいちゃんが言うと胡散臭さがすごいな……」
「ほ、ほんとやって!こんなんやるにしたってちゃんとそうゆうのは調べてるから大丈夫やって!!」
「ま、まぁそこは信用してるけどよ……っと、そろそろ行こう。」
2人が元いた方で大きな音がする。
それにつられて、入り口の見張りが離れていく。グリムが起こしたであろう時間稼ぎだろう。
「ちょっと入り組んでるけど道筋はもう覚えてる!付いてきてくれ!」
「頼んだで!」
アルカのあとをヴェルミーリョが走り付いていく。
アルカの走りは迷いがなく、すぐに捕まったフィンがいる場所あたりまでたどり着いた。
「すぐそこ、フィンのねーちゃんの前に2人いる」
手をかざしスピードを緩めて足音を殺しつつ、アルカがヴェルミーリョへと告げる。
2人がそっと覗くと、フィンの牢屋の目の前で商人風の男とその用心棒のような男が話していた。
「こんな夜中に賊とは……ゼンディ商会かエルドリ商会の差し向けか……?それとももしや、国のガサ入れか?!どっちにしろコイツだけは、それは途方もない報酬で買い手が付いているのだ、奪われるわけにはいかん!」
「確かにこの女、そりゃもう美しいですがまだ小娘ですぜ?……いや、未成熟でしかも珍しい目の色のエルフに、途方もない報酬……もしや、買い手はあの『色欲爆発卿』で?」
「ああ、あの『色欲爆発卿』だ。」
いや、色欲爆発卿ってなんやねん!
知らんし!ただの変態やんけ!!
「あの『色欲爆発卿』に売られるんですか、僕。」
「って、フィンくんキミも知っとるんかーい!!」
「ッ!誰だ!!」
「ちっ他にも賊が居たか!!」
思わずツッコミを入れつつも、ヴェルミーリョはスキルを使い商人と用心棒の背後に瞬間移動する。
そして――
「男女平等当て身ィ!!!!!」
「ぐぁあ!!」
「ぐふうっ!!」
ヴェルミーリョが2人の後頭部に当て身を直撃させ、意識を刈り取った。そうして、なんとも言えない空気だけが残る。
「……いや、色欲爆発卿ってなんなん!?!?」
「や、僕もよくわかんないよ。前の僕の買い手もそうだったってことしか。」
「なんなん!?そんな奴おるか?!?!不思議すぎるやろーー?!!!!!」
「まぁまぁ、そんな人も居るんだよ。」
「イミわかんなすぎるやろーー!!!!」
そうしてこの日から色欲爆発卿という、わりとどうでもいいひとつの謎がヴェルミーリョの心の隅に居座るようになるのであった……。
色欲爆発卿…………一体何者なんだ……!




