誰か彼らを救うのかⅤ
ヴェルミーリョとの約束の日。
人気のない場所で3人は、孤児たちとの対面を果たしていた。
「お〜……グリムっちに聞いてたけどやっぱりたくさん居るね〜」
フィンたちの前には孤児たちを代表者してアルカとギゼルが、そしてその後ろには20人を超える子供たちが控えていた。
お互いにお互いを値踏みしているのうな空気が流れる中、ヴェルミーリョがアルカに話しかける。
「どや、答えは見つかったか?」
「ヴェルミーリョのにいちゃんが満足できるかわかんねーけど、オレたちなりにちゃんと考えてきた!」
「ええやんけ。そいじゃあ教えてもらおうか、お前ら抱き込む代わりに何を対価として出してくれるんかを。」
「わ、わかった!」
子供たちがごくりと息を呑み、フィンとグリムも続くアルカの言葉を見守る。
「……オレたちがあんたたちに差し出せるモノ……沢山考えたけど、この身ひとつぐらいしか思いつかなかった。だから、この身を差し出して……オレたちを「奴隷」として、あんたたちの所で働かせてほしい!」
3日前フィンに言われた言葉から、アルカは自分たちにできることを一生懸命考えた。
そして出た結論が「奴隷」として働く、というものだった。
普通に働くのでは自分たちより学のある人間との差別化ができない。
盗みなどの軽犯罪を侵した自分たちを背負うリスクも、ただ働くだけでは帳消しには出来ない。
なればこそ、自分たちの差し出せるものを差し出すしかないのだという結論に至ったのだった。
「…………ほう、奴隷か。具体的にワイにどんな得があるん?」
「グリムのにいちゃんに、奴隷について調べてもらったんだ。それで、奴隷は普通に人を雇うより長い目で見れば得をするっていうトウケイってのが出てたんだ。
それに奴隷になれば主人になった奴と契約の魔法で縛られることになる、オレたちが小悪党でもあんたたちが首輪をつけれるなら安心だろ。」
「確かに買うにも養うにも、契約するにも奴隷は元手が掛かるけど、時間が経てば経つほど収支はプラスになっていくな」
「それが5年後か10年後になるかわからないけど、絶対にいちゃんたちに損はさせないって約束する!まだ読み書きも算術もまだ出来ないけど……でも絶対、必ず覚えるから」
「奴隷として働くことと、時間をかけて学を身につけること。それを以てキミらのデメリットをチャラにしたいって事やな?」
「ああ。奴隷になって働くことを受け入れる代わりにあんたたちの下で……飯が食えて、屋根のある場所で寝れるなら。どうかオレたちを今の生活から救い出してほしい」
「そんじゃあ奴隷の契約魔法の内容は、こっちが出すのは飯と寝床、そっちが出すんはこれから先ずっと使える奴隷としての労働力……それでええんか?」
「ああ!」
アルカが言いたいことを言い切り、ほんの少しの沈黙が流れる。
「…………ふむ、65点やな。」
「ろくじゅうご……え?」
「中途半端な答えってことや。途中まではめっちゃ良かったで。でも、キミらはもっと欲しがることをしたほうがええ」
ヴェルミーリョの答えに、アルカを含めた孤児全員の頭が真っ白になった。
欲しがるって……何もない俺たちがこれ以上を求めれるっていうのか?
「キミら、今二束三文で奴隷になって、そんで飯食えて屋根あったら満足なんか?生きるための最低限の金だけもらって欲しいもんも買えん、自分の事も買い戻せんで、それで一生終わってええんか?」
「で、でも、オレたちにはもう差し出せるものなんて……」
「学がないってのは怖いもんやな。ええか、もっと相手のことを考えて自分たちの価値を底上げするるんや、そんで交渉すんねや。キミらは今自分の残りの人生天秤にかけとるんやぞ」
そこまで言ったところで、ヴェルミーリョがはぁ、とため息をつく。
そして――、
「ワイらの商会はもっとデカくなる予定や。そんなワイらが、これから先やってく時ぶつかる敵ってなんやと思う?」
「あ、えと…………」
「他の商会、か?」
ヴェルミーリョの突然の質問にまごついたアルカのかわりに、隣に立っていたギゼルが答える。
「せや。賢いやんキミ……じゃあ普通の人間を雇った時、一番困るのってなんやと思う?」
あわあわしているアルカのかわりに、ギゼルが思考を巡らせる。
そして前後の質問の互換性に気づいた彼は顔を上げヴェルミーリョを見て答える。
「……その人間が他の商会に流れていったり、取られたりすること……か?」
「おー、ほぼ当たりやな。商業ルートや商材の作り方……要は自分たちの秘密を取られたくないわけや。そこで、普通に雇うのと君ら雇うので……君らの方が有利な条件があるな?」
「!ッそうか、奴隷契約の魔法!」
「おう、ようやっと答えにたどり着いたな」
「ギゼル、それって――」
「ああそうだ。すまねぇがヴェルミーリョ……さん、奴隷契約の魔法の内容を変えてもいいだろうか?」
「ええよ、言うてみ」
ギゼルとアルカはお互い目配せし、うんと頷く。
そして――
「オレたちはあんたたちと契約して奴隷になって働いて、読み書きも算術も必ずモノにする!そして商会の秘密は死ぬまで漏らさないと誓う!
代わりに飯と屋根のついた寝床、あとは……お金も欲しい!」
「ふむ、もうひと声欲しいな」
「……俺たちの条件を飲んでくれている限り奴隷の身分を買い戻したり逃げ出したり、こっちから契約の破棄をしたりしない…………で、どうだ?」
アルカの言葉とギゼルのフォローに、ヴェルミーリョがニヤリと笑い右手を差し出す。
「ええやん、90点や。その条件でええんやったら、是非よろしく頼むわ」
「ああ!」
ヴェルミーリョの手をアルカが掴み、満面の笑みを浮かべる。
それを見たギゼルと後ろの子供たちも皆嬉しそうな表情でそれを眺める。
「いやぁよかったね〜」
「ッスね!!」
ことの顛末を見守っていたフィンとグリムはほっと胸をなでおろした。
そんな2人にヴェルミーリョが声をかける。
「キミらもこれからまた忙しくなるで」
「頑張るッス!!」
「ふ、任せなよ〜!なんでもするぜ〜!!」
「お、言うたなフィンくん。期待しとるでー」
「オレたちも頑張るぜー!!」
3人の話し合いにアルカも入って行き、他の子どもたちも「がんばるー!」と声を張り上げる。
そんな子どもたちを見て、ヴェルミーリョたち3人は心を新たにし、気を引き締めるのであった――。




