誰か彼らを救うのかⅡ
アルカやフェイシアをはじめとする貧民街の孤児たちをどうにかしてやりたいというグリムの意気込みに対し、
「あんまり乗り気じゃないよね?」と言われたヴェルミーリョは、なんとも言えない表情でフィンを見る。
「フィンくん、君なぁ…………」
「な〜に?じゃあ全面的に賛成してくれるの?」
「それは……まだ、ちょっとなぁ。」
「う、そうなんスか……ヴェルミーリョさん…………」
「…………。」
グリムとアルカが悲痛な面持ちでヴェルミーリョを見る。
「そら……色々、なぁ。」
「…………おれたちは、おれたちは何がだめなんだ?」
やっと縋れるものに出会えたと思ったアルカは拳を震わせながら、必死にヴェルミーリョへと問いかける。
そして、問われた側のヴェルミーリョもまた、どうしたものかと悩んでいた。
……気まずい空気の中、最初に静寂を破ったのはフィンだった。
「……ん〜とね。アルカ達は、だめなんかじゃあないよ。それに、ヴェルさんも本心ではなんとかしてやりたいって思ってるはずだよ」
「じ、じゃあなんで……」
「だいたいはヴェルさんの言いたいこともわかるんだけど……。
どうしよう?僕が言ったほうがいいかな?」
そう言いながらフィンがヴェルミーリョに振り返る。
……ヴェルミーリョは思う。
多分こいつなら、自分の意図も全部話してくれるだろう。
何せ長年友達やってきた仲だ。
……でも。
でもそれは……ワイがちゃんと言わなあかんことやろ。
「いや、現実付きつけるようなキツイ言い方になるし……ワイが思ってることや。ちゃんと言うよ。」
嫌な役を分かった上でやろうとしてくれたフィンの優しさに感謝の念を懐きつつも、
しかしながら自分の言いたいことは自分で言わねば、ヴェルミーリョが決意を新たにし、アルカ達の前えと出る。
「グリムくんにアルカ、それにフェイシアちゃん。
ワイもな、フィンくんが言ったように……なんとかできるならなんとかしたい思ってるよ。でもな、色々問題があんねん。」
本音を話し始めたヴェルミーリョに、グリムとアルカ、それにフェイシアも息を呑む。
「まず第一にワイらがやってるこの串焼きの仕事や、ポーション売り、製造……いずれ誰かを雇い入れて事業を拡大するってのはもう考えてはいるんや。」
「おお、いい考えじゃないスか!」
「せやろ?……せやけどな、君らを雇うのと最初から学がある奴を選ぶの、絶対後者のほうが楽やしすぐ結果が出んねん。
それに盗みだとか、小さくても犯罪歴のある奴は心象が悪い。
……ハッキリ言ってまうけど生きるためとはいえ、今の今まで悪い事して生きてきた奴が、次の日からまともになるとは思えへんのよ」
「……あ、う……。それはそうだけど、……いや、そうだよな…………」
「ああ、せや…………だからな、ワイを納得できるように交渉せえ。」
「え……?」
「グリムくんは君らの境遇を見た。
フィンくんは君らの人となりを見た。
ならワイは君らの努力を……どれだけ頑張れるんかを見ようと思う。それを以てワイは、きみらを判断したい。
……3日やる。仲間と相談して、デメリットを帳消しに出来るなんかを探してくるんや。」
「わ、わかった!!」
「グリムくんも付いてったりーや。
口出しはあかんけど、この子らが知りたい事を調べて教えるぐらいはしたってもええぞ」
「了解ッス!!」
「ほんなら、さっさと行き。」
ヴェルミーリョがそう言ったのに合わせて、フィンがパチンと指を鳴らしシールドシェルを解除した。
「持ってきな〜皆で食べるといいよ〜」
「うっす!フィンさんありがとうございます!」
「こんなに……あ、ありがとう!」
「あり……がと…………!」
フィンが、いつのまにか増やしておいた料理をしこたまグリムとアルカ、そしてフェイシアに持たせる。
「いいってことよ〜!……っとアルカ、ちょっとこっち来て。」
そう言いアルカを呼んだフィンが、アルカの頬をぎゅっと両手で包んだ。
フィンの手から伝わる熱と近づく顔に、アルカは少しばかり緊張する。
「いいかい?より良い未来を掴むためには自分の『何か』を差し出さなくちゃならない。自分に『何が』できるか……よく考えるんだよ、分かったかい?」
そう言ったフィンは手を離し、にこりと微笑む。
フィンの言葉を受け取ったアルカは戸惑いつつも、「……うん、わかったよ!とにかく頑張ってみる!」と言い、フェイシア達とともに走り去っていく。
そうしてあとに残ったのは、フィンとヴェルミーリョのみ。
「……う〜、やっぱり僕は協力しちゃダメだよね?」
「そらそうやー。どうせフィンくん、聞かれたらなにかしらの答え言ってまうやろう?……それはあいつ等が自分で考えて出さんと意味ないもんや。何でもかんでも与えてしまったら駄目になるからな。
……それにキミぃ、自分の優しさで人をだめにするって自覚あるやろー?w」
「うっ!」
自分の優しさや甘さから力を乱用しまくり、村の何割かを駄目人間にしかけたフィンは思わず唸る。
「……ていうか、さっきアルカにやったヒントがもう、1番の協力なんちゃうか?」
「う〜〜…………まぁ……確かにね。ふん!よく分かってんじゃん」
「ま、付き合い長いしな。」
「ちぇ〜」
「あいつ等が帰ってくるまで、せいぜいその卵の孵化作業でもしとくんやな。ワイもあいつ等抱き込むときに不安になりそうなとこ、ちょっとひとりで調べておくわ。」
「了解だよ〜。ふ、期待しときなよ?この卵から最強のヒロインが爆誕するのをな〜!」
「まだ言うかこいつw」
そんな冗談を言いあいながら、2人も街中へと消えて行くのだった――。




