【エルフ転生編】エルフのフィンとチェンジリングⅡ
家に着き彼女、ネルの荷物を部屋に運ぶのを手伝う。
「これはこっちでいいかな?」
「あ、ありがとうございます…!」
「いいってことよ~」
両親からは家に着き次第ネルへの部屋の案内や村での生活を説明するように言われており、荷ほどきが済み次第外に出るつもりだ。
親はどうしたかって?最低限の挨拶を済ませたら早々にそれぞれ狩りや山菜の調達に出ていったよ。
「……あの、」
「ん、な~に?」
ダークエルフの少女、ネルがやや申し訳なさそうに口を開く。
「色々気を使ってもらってすみません……私…その、やっぱり邪魔者、ですよね。
一応今まで「子替えの儀式」をされてきた先人の方々にアドバイスと言うか……
こちらの村でどういった生活をされてきたかは聞いているので…その、」
気丈な態度で、でも今にも泣きそうな顔で少女が言葉を紡ぐ。
ふと、昔の記憶が頭をよぎる。「子替えの儀式」が前回実施されたのはフィンが3歳の頃だ。
異世界転生し前世の自我が芽生えていたので鮮明に覚えている。
こちらの村での「子替えの儀式」は…はっきり言ってしまえばただただ非道いの一言に尽きた。
両親がネルにしたように、ほとんどのエルフが腫れ物を扱うようにやってきたダークエルフの少年に接し、
面倒事を持ちかけるなと言わんばかりに心に壁を作っていた。
そんな環境で1年過ごせばどんなに元気な人間だって気を病むに決まっている。
一年経ち村に帰る直前の少年はかなり憔悴しきっていたと思う。
こんなのはただの集団暴行だ。
当時それに苦言を呈した際は三歳児だったこともあり誰にも相手にもされなかった上、
親には頬を張られ二度とそういった事を言わないようひどく叱られた。
親の立場を考えれば、自分の子がこの村の多数派と違う考えを発信していると知れば
自分の家庭が周りとは違う「少数派」だと勘ぐられるのは避けたかったのだろう。
実際村というコミュニティで孤立するのはほとんど外界へ出ないエルフにとって死活問題。
皆が皆好き勝手にやれば秩序が乱れ、安定していた生活が乱れ、全員が生きていけなくなる。
森から出ず、限りのある資源で細々と生活しているからこそ定められた「秩序」を乱すものは居てはならない。
だからそれぞれが監視をしあい、秩序を守る。
イレギュラーは排除される。
それになりえる者とは、距離を取る。
至極当然の話である。
だからこそ――
「…あのさ、」
「ッはい」
びくり、と彼女の肩が跳ね上がる。
「他のエルフはどうか知らないけど――」
荷物を置いたフィンはネルに向き直り、普段とは違う真面目な目で彼女を見る。
「…少なくとも僕は君と仲良くしたいし、うちに来たからにはなんとか一年経つまでに君の家族になれたらって思ってるよ。」
――そう告げた。
「……ッ!」
ネルの肩がわなわなと震え、目には大粒の涙が浮かぶ。
「だからまずは、友達になってほしいな。いいかな?」
「ッはぃ……!」
空気を読んで、
見てみないふりをして、
嫌でも首を縦に振って、
笑顔を作って、
――皆自分に嘘をついて生きていく。
この村の現状を知り、そういえば前の人生もこんな胸糞の悪い環境だったな、そう思っていた。
わかっている。ほとんどの人はそうするものだ。
それでもフィンは元々からそんな環境に辟易としていて、損を覚悟で仕事や親、色々なもの見切りをつけて来た人間であった。
ただ見切りとは聞こえはいいがそれに対して払う代償はそれなりに大きく、やはり周りの人間からは馬鹿だの損だの可哀想だのと言われ、
時たま自分の行動が正しかったのか答えのない自問自答を繰り返し、結局は息苦しく生きてきた。
……でも死んでみて、一つ分かった事がある。所詮は他人の言うことでしかないのだと。
やはり最後に残るのは「自分の心に従え」だと言うことを。
だからこそ、今回も、いや―
今回は、もっと振りきって生きてやるのだ。




