誰が彼等を救うのか?
「なるほど、アルカは貧民街の子供グループのリーダーをやってて、フェイシアちゃんがグリムっちに攫われたと思ったから後をつけてた訳ね〜
……それで僕らと合流してヤバイと思ったから強攻策に出たと。」
「むぐ、そうだよ……なんか悪いかよ……もぐもぐ」
アルカの空腹という弱みを握ったフィンは、
彼がひとつ質問を答えるたびに肉がひときれ乗った皿を、シールドシェルの隙間から差し出す。
アルカはそれを一心不乱に頬張り一瞬だけ満たされた後、また物欲しそうに次の質問を待つ。
そんな完璧な尋問環境が整いつつあった。
「ん〜ん、なんにも悪くないよ。ヴェルさんみたいに目付きが悪いのが合流してきたらそりゃあ心配になるしね」
「ちょ、目付き悪いからって人を見た目で判断するんはよくないと思うんやがー?」
「たしかにそうだ……実際おまえら3人の中で一番やばかったのはねーちゃんだった……」
「ん〜?なにか言ったかな〜?」
フィンがゆっくり、手に持っていた肉の皿をアルカから遠ざけた。
それを見たアルカが慌てた顔で言葉を取り下げる。
「ご、ごめんてば!謝るから!!後生だからそれだけは……」
味付けや料理法が違う文化でも、やはり美味しければ誰もが心を掴まれる。
美味しい食べ物は万国どころか異世界まで共通なんだな〜、とフィンは思った。
「ふふ、じゃあ次の質問。
……そのグループって何人ぐらい?普段は何処にいて、何してるの?」
皿に2つ肉を置いたフィンはアルカを見据える。
対してアルカは自分以外の子供たちの情報を答えねばならない質問をされ、表情を暗くした。
こいつらも同じだ。
そうやって優しく振る舞って俺達のことを聞きだした後、俺達の住処を奪っていくんだ。
まるでネズミを家から追い出すみたいに。
「いくら馬鹿なおれでも……答えたらみんなにメーワクかかるって分かってる。だからそれだけは絶対答えねー……!」
「ふ〜ん」
何が嬉しいのか、笑顔になったフィンは皿の上に大きな串焼きを数本追加する。
それを見たアルカは歯を食いしばりながら空腹を我慢し、フィンを睨みつけた。
「どれだけ積んでも、どんだけ腹が減ってても……俺は絶対仲間は裏切らない…………!」
そんなアルカの決意の言葉に、フィンは「うん」と頷く。
「……グリムっち、この子達なんとかしてあげたいんだよね?」
「ッスね……!」
「ん〜、どれだけ人数居るかが分からないからなんともだけど、僕もまぁひとまず賛成かな。少なくともアルカは信用できる奴だと思う。僕はすごく気に入った。」
何言ってるんだ?
なんとかしてやりたい?……おれたちを?
それにおれを、信用できる奴だって……?
「お、おまえら……いったいなんの話してるんだ……?」
唖然とした顔でアルカがフィンとグリムを交互に見て呟く。
「あ〜まぁ、話は長くなるけど……フェイシアちゃんがグリムっちに懐いてついてきて、彼女の境遇をなんとかしたいってグリムっちは思ったわけね?」
「あ、ああ……」
……そうやって巣立っていくやつも、今までそれなりに見てきた。
拾ってくれた奴はきっといい奴なんだと信じて。
拾われた奴が自分たちの事で迷惑を被らないように『おれ達のことは忘れろ、気にするな。』と送り出してきた。
自分にだってチャンスが無かったわけじゃない。
でも、自分にはこんな場所でも生き抜く能力があったから。
それで他の仲間を食べさせることも出来たから、今日までみんなをまとめて生きてきたんだ。
…………でも。
でも、本音を言えば、誰かに救ってほしかった。
こんなクソみたいな場所から、抜け出したかった。
信じて、いいのか。
「もしかして、俺たちを全員を救ってくれるっていうのか?おまえらになんの得があるんだよ……?!」
「…………そうなんだよね、実はあまり無いんだよね。だから多分、ヴェルさんはあんまり乗り気じゃないよね?」
ね?と聞かれたヴェルミーリョは図星を突かれたのか、きまりの悪い顔をした――。




