何よりもヒロインが足りない。Ⅲ
「グリムくんその子どうしたん……もしかして攫ってきたん!?」
ヒロイン的なモノを探そうとは言ったものの、すぐには見つからないと思っていたヴェルミーリョは目の前の子供とグリムを交互に見ながら少し引き気味に聞く。
服装は捨てられた物を見繕っているのか、所々チグハグで外面だけでは男か女かもわからない。
髪の毛もボサボサで着ている服からは据えた匂いのする、まさにザ・貧民街出身といった感じの出で立ちである。
もしも自分が道中で見かけたのなら、たとえ子供といえども関わり合いになろうとは思わない人種だ。
「ちょ、攫って来たとかさすがに人聞きが悪過ぎるッスよー!そんな事するわけないじゃないスか、まぁなんというかこの子は……『食い逃げ犯』って所ッスかね。」
「あ〜そういえばグリムっち、自分からは絡みに行きづらいから屋台で串焼き売りながら練り歩くって言ってたね。それでウチで無銭飲食してたってこと??」
「いえ……やってたのは俺の向かいの店だったんスけど、捕まって殴られそうになってて。代わりにお金を払って、可哀想だからうちの串焼きもあげたら着いて来ちゃったんス…………やっぱ不味かったッスかね?」
「そらまずいやろなぁ。っていうかうちの商品も結局無銭飲食やし」
ヴェルミーリョの言葉に子供はビクッとする。まともに栄養の行き渡っていない細い腕が震え、怯えたような表情でグリムの服の端を掴んだ。
「ちょっと言い過ぎじゃないの?」
「いやいや!まずいってそういう意味ちゃうで。親とか居るかもしれんのに勝手に連れてきたのかもしれんやろーってそういう意み――」
そうヴェルミーリョが言いかけた時、
突然グリムが何者かの体当たりを喰らい路面に転ばされた。
「うっ!!」
「フェイシア!!捕まれ!逃げるぞ!!!」
「……あ…………!」
フェイシアと呼ばれたその子の腕を掴み走り去る12歳ぐらいの少年。どうやらグリムは少年に突き飛ばされたらしい。
「イタッ!って思ったけどあんま痛くないッス!!」
「どっちだよ~?!っていうか食い逃げ無銭飲食マンが逃げたよ?!」
「食い逃げ→無銭飲食からの食い逃げや!っていうかどっちもおんなじ意味やけどな!!とりあえず捕まえるぞ!!」
「えっ捕まえるんスか?!」
「アホ!このまま逃げられてあの子供にウチの屋台がチョロい店って思われたら商売やってけへんくなるやろ!!!」
そう言いながらヴェルミーリョはスキルを使い、逃避行を図る二人の真後ろに瞬間移動する。
そして少年の首筋へと攻撃を打ち下ろす!
「喰らえ!久々の!!男女平等チョップッッッ!!!!!」
「あっ!この前僕を気絶させた時に使ったやつだ!!!!!」
真後ろからの突然の一撃。
初見であればほぼ反応できないソレを、なんと少年は軽々と避けた。
「なんやとォ!!」
「あっ!この前進研ゼ○でやったところだ!って感じで避けられた!!!」
「そんな攻撃俺に当たるかよ!バーカ!!!」
この問題を引き起こしたグリムが、ヴェルミーリョに続き2人を捕縛するようにヘッドスライディングを決めるが――これも難なく避けられる!
「ワンパターンなんだよ!デクの坊がよ!!」
しかしそこまで言ったところで少年は何かを察知したのか、急にブレーキを掛ける。
少年は自分の周りを数度見た後、地面に突っ伏したグリム、それに手を貸すヴェルミーリョを確認し、残ったフィンを憎々しげに睨みつける。
「お前……なにしやがった!」
「お、掛かった~!」
ヴェルミーリョとグリムの波状攻撃に合わせ、フィンは既に魔法を発動させていた。
中級防御魔法『シールドシェル』
フィンが新しく覚えた魔法で、ドーム型に展開される物理防御の魔法で360度死角のない、対象をすっぽり覆うシールドだ。
発生中は中からも出れないという欠点を使った、うまぶりマジックである。
すばしっこさだけでは範囲から出れないように今回は広く魔法を展開した。
そう、うまぶりマジックである!
フィンは「ふふふ」とドヤ顔になった。
「ふふ、よーし!それじゃあ話を聞くとしようか~」
「あぁ?!お前みてーな糞女なんかに話すことなんかねー!クソ垂れ流して死んじまえ!」
「はぁ~クソクソって汚いんですけど~?それに食べ物盗む奴らに食べ物の副産物である糞を語る資格なんて無いし!!そんな事言う奴は地面に身体埋め込んでクソ垂れ流せなくなるまで断食させてやるし!!!」
「どこにキレてんだよお前?!?!」
「ア……アルカ!違うの……!このひと、たちは……!」
食い逃げ犯、フェイシアの言葉が2人に届いたのは…………少年、アルカが首まで埋められた後だったという……。




