何よりもヒロインが足りない。Ⅱ
次の日の夕方。
「あのさぁ……」
ヴェルミーリョはおおいに呆れていた。
昨日までなんの予定も無かった3人は、昨晩ヴェルミーリョが言い出した「癒し」を手に入れるため、今日は3人別々に街を散策しよう!と、予定を立てたのだ。
要は可愛いヒロインを探してこようぜ!という話なのだが…………。
「……フィンくん、『ソレ』……なんなん?」
フィンの手には直径50センチ程の、大きな卵が抱えられていた。
「何って……卵だけど?」
「おー?君のヒロインは卵なんかー??
ヒロインよりも食べることに極振りしてるとか、もしかして食いしん坊ガチ勢か〜???」
「は〜??ちゃんと有精卵なんだが〜??」
「もっとあかんやつやんけ!そんな畜生、捨ててきーや!」
「やだ!!こいつは僕が愛情持って育てるんだ〜!!」
ヴェルミーリョの言葉にフィンは卵を庇うように抱きしめた。
そんなフィンを見ながらヴェルミーリョは短くため息をつく。
「あのなぁ……生き物飼ったことあるんか?ほんに大変なんやぞ!散歩とか飯とかうんことか夜鳴きとか!」
「最後までちゃんと面倒見るもん〜!!」
「……なんかお母さんと子供みたいッスね」
「いや、誰がオカンやねん」
「そうだぞ、僕だって大人だぞ〜!」
グリムの発言に対する突っ込みでひとまず落ち着いたヴェルミーリョ。
……ひとまず卵を持ってきた経緯をフィンから聞いてみると、
どうやら彼女は街を歩いている途中で家畜や人間が飼い慣らすことができる魔物などを取り扱う店に辿り着いたのだそうだ。
魔物の販売は幼少期から主と認めさせるために卵で売られることが多く、孵化は買った人間の魔力を込めることで成る。
そんな説明を店主にされたフィンは、現実では見たことのなかった大きい卵のショーケースを物珍しげに眺めていた。
そこでこの卵に目がついたらしい。
「他のと違って卵を覆う魔力が弱々しくて……今にも死んじゃいそうだったから……買わなきゃって思ったんだもん…………」
「はーー、君の『魔力が見える目』って奴で厄介なもんが見えちまったわけか」
「店主の人も自分のひいお爺さんの代からある、中身の分からない謎の卵だーって言ってて……あんまり手放したくなかったみたいだったんだけど、やっぱり見捨てるのはヤだったから……お金出して買ったの」
「いくらしたん?」
「金貨50枚……」
「ぜっっっっっっったいぼられてるやん!!」
「仕方ないじゃん〜!!店主さん、
『中身が気になって魔力を込めても吸われるばっかりで一向に孵化しねぇし、もうウチの看板がわりのアンティークにする!』
って言って聞かなかったんだから!お金積むしかなかったんだよ〜!」
「絶対中身腐っとるやろ!!生まれてもどうせゾンビか……いや、もうゾンビやろ!!!」
「も〜うるさいなぁ!!ゾンビだって生き物だろ〜!?
生き物な以上きっと生まれたいだろ〜!!」
「ゾンビに生まれてどないすんねん!生まれた意味!!」
「生まれてから探せばいいだろ〜!!」
「なんていうか、生まれた意味を知るRPGって感じッスね……」
「ソレなんも上手くないからな?!
…………はぁ、なんか疲れたわ。もう勝手にせぇ」
「勝手にするもん。……っていうかヴェルさん誰も連れてきてないじゃん。言い出しっぺのくせに成果なしなの?」
「ワイかて色々回ったんやー!」
「どうせ奴隷市場とか行って可愛い女の子探してたんだろ?」
「べべべ別にそんなんちゃうし!」
「……で、居なかったと。そうゆうことでしょ?」
「……もー!なんでわかんねん!!心読むのやめぇやー!!」
「考えが浅はかだね〜中身の無いトッボみたいな奴だよ、全く。」
「それって最後までチョコ無しって事ッスか?」
「最後まで空気しかないね〜」
「やめろや〜存在意義の無いやつみたいな言い方やめろやー」
「あともうちょっと中身がなかったら明日から君の名前はおっと○とになるところだったぞ」
「うわぁ……でもそれはおっと○とに失礼やろ……」
おもむろに凹むヴェルミーリョを見てフィンも少し、溜飲を下げる。
その辺りでようやくフィンは第三者の存在に気づく。
いや、気づいてはいたがそれに触れる余裕がなかったのだ。
「……そういえばグリムっち、その子どうしたの?さっきからずうっと黙ってるけど。」
グリムの横には、みすぼらしい服装をした10歳ぐらいの子供が立っていた――。




