何よりもヒロインが足りない。
冒険者達がクエストを終え、それぞれの仲間たちと飲み交わす夕闇どき。
「そういや今日は何してたの〜?」
例に漏れず、他の冒険者たちと同じくクエストを完了してきたフィンは、グリム達へ休日をどう過ごしたかを聞いた。
「ワイは寝とったわー、たまにはこうゆう日も必要やし」
「俺はこれで変身魔法のコツを聞いてたッス」
そう言ってグリムが本を見せてくる。本には『イリュージョニスト』と書かれていた。
「この本、隠匿系の魔法や変身魔法で大道芸をしながら、いろんな国を旅したって人の伝記なんスよ」
「あ〜なるほど、その人をスキルで呼び出して先生になって貰った訳か〜!いいな〜僕も今度聞いてみたい〜」
「いいッスけど……めちゃめちゃ我が強い人でしたよ。しきりに『女が居ないとやる気が出ない』ってすんごい文句言ってくるんスよ……」
「う、う〜ん……また今度にしようかな〜。ん〜、明日はキミたち何するの?」
「決めてないなぁ、寝て過ごしてもええかとも思っとったけど、それもなんか勿体無いしなぁ」
「俺もなんも決めてないッスねー……」
「僕も明日は一日フリーだな〜」
ふとフィンが明日の予定を聞くと、自分も含め皆「予定が無いのが予定」といった感じの答えを出す。
もう食べ慣れた料理と酒を身体に流し込みながら、ふとヴェルミーリョが呟く。
「なんかさ……この辺て食べる以外、もうやること無いよな。」
「「あー……」」
「やる事ってか、やりたい事が出来る場所が無いねんな……」
「や、やめなよ……」
「もっとさ、温泉行ったりカラオケ行ったり……」
「や、やめましょうよ、それ以上はヤバいッスよ……」
「飲んで喰う以外の癒やしが欲しいって……思うんよね…………」
「「あー……」」
異世界転生者として、常日頃言わないようにしていた娯楽や癒やしへの郷愁が漏れ出てしまったヴェルミーリョに、フィンとグリムもなんとも言えないセンチメンタルな気持ちになる。
ああ、懐かしの故郷。
美味い食べ物、美味しいお酒。
漫画にアニメ、カラオケ、ボーリング。
ビデオゲームにカードゲーム、ボードゲームなど、今はもう手の届かない飽和しきった娯楽の数々。
「いやさ、しゃあないのは分かるけどさ……せめてさ、異世界転生なんやしさぁ……」
「うんうん」
元気なさげにヴェルミーリョが再び口を開いた。
なんだかんだ同調してしまうようなことを言うのだろうなぁ。と思いつつ、フィンが元気付けるように背中をさする。
「……1人でええから可愛いヒロインが欲しいわ。」
は?
……んん??
「ちょっとまてよ!僕はカワイイだろ〜?!!」
ヴェルミーリョの予想外な台詞にフィンが憤慨する。
余談だが、フィンはよく自分の事を超絶美少女と冗談のように言うが、実際本当に規格外な美少女の見た目をしているし、フィン以外の2人ももちろんそうだと認めている……内心で。
「ちゃうねん、君は可愛いかもしれんけどヒロインちゃうねん、
マ○オカートの順位で言うなら4位やねん」
「ギリギリ表彰台に立てない奴じゃん!!!」
「まぁまぁ、フィンさん、まぁまぁ落ち着いてくださいッス」
「お、お、お、落ち着けだって?
べ、別に落ち着いてますけど〜???」
顔を膨らませるフィンにヴェルミーリョは「くくく」と笑い、
別の方面からの癒しを感じつつ、フィンの誤解を解くように言葉を選ぶ。
「言うてワイらはどれだけ一緒におっても恋人みたいにはならへんやろ、って話や。
君かてそう思うやろ?」
「当たり前じゃん、きもちわるいこと言うなよな〜」
「せやから4位やねんて、攻略キャラじゃないねんから」
「むー……まぁ、そうだね。4位は腹立つけど。
そうゆうことなら仕方ない」
「あーホンマ……たまには可愛くて脈アリな女の子と楽しく会話したいわぁーー」
「そんな感じで相手してあげようか?
今日のクエストでたまたまそうゆう接待の仕方も面白半分に教えてもらったけど〜」
「ほぉーん、どんなんなん?」
「特定の言葉を使えばいいって教えてくれたよ〜、えーっと確か……
・さすが〜!
・しらなかった〜!
・すご〜い!
・センスい〜!
・そ〜なんだ〜!
……だったかな!」
「キャバクラさしすせそやんけ!!!」
「そ〜なんだ〜♪知らなかった〜!すご〜い!!」
「応用の効いた三段活用じゃないスかー」
「かー!腹立つわ〜〜!w」
「ははは」
フィンの言葉に2人は思わず突っ込みを入れつつ笑顔になる。
「よーしそれじゃあ明日は――――」
そして、ヴェルミーリョの言葉で明日の指針が決まった。
3人の休みは、まだ終わらない。




