休日のすごし方
いつもは午前に薬草集めのクエストに励み、午後はそれぞれのやりたい事をやっている3人。
そんな彼らにももちろん休日はある。
週に2日……場合によっては3日。
そう。
日本人、特に社畜にとっては夢の就業環境「完全週休2日制」である。
薬草集めの給金だけでは本来なし得ないのだが、ここ最近ではポーションの販売や串焼き屋営業などでの収入がある。
お金に余裕があるならば、休みたい。否、休もう。
3人の意志は固かった。
異世界に来てまで社畜など、全く御免なのだ。
「かーー、今日はもうマジでしんどいから夕方まで寝たろうかなー……」
「最近忙しそうにしてたッスもんねー」
毛布を被ったまままま動こうともしないヴェルミーリョに、グリムが合いの手をさしのべる。
「グリムくんは今日どうするん?」
「そうッスねースキルの練習も煮詰まって来たし、フィンさんから教わった変身魔法をそろそろモノにしたいって思ってるんすけど……」
「そういや忘れとったけど悪魔やもんな君ー……ってあれ?フィン君は?」
「魔法を教えてもらう〜とか言って出てったッスねー」
「フィン君もようやるなぁー……」
そう言いながらヴェルミーリョは再び惰眠を貪るため、布団に包まりまぶたを閉じた。
――ちょうどその頃城門では、
フィンが目の前に居る4人の女性にぺこりと頭を下げていた。
「フィンです、今日はよろしくおねがいします〜」
「ええ、よろしくね♪」
「今日は私の華麗な魔法を見せてあげるんだから、しっかりと目に焼き付けていきなさいよね!」
「防御魔法だって大事だよ?
今日はそれも見ていってほしーよねー」
「か、回復魔法もその、えと……よ、よろしくおねがいします……!」
彼女達4人は、フィンが注したクエストに応募してきたCランクパーティ『傾国の魔女』だ。
クエストの内容はFランクのフィンがDランク以上と合同で受けれる、害獣処理とスライム程度の魔物の討伐に2日間付いてきてほしい。という物だ。
そしてそれに金を積み、フィンは2つの条件を付けた。
ひとつ、中級以上の魔法が使える魔法使いが2人以上いること。
そしてふたつめが、クエスト中に魔法を見せてもらう事である。
ここ最近、魔法ギルドで有用そうな魔法の資料を買い足しては勉強していたフィンであったが、実はある壁にぶつかっていた。
…………資料が、分かりづらいのだ。
この世界の魔法は呪文を唱える事である程度魔力の流れをサポートし、魔法の発動を促してくれる。
しかしながら、呪文でサポートしてくれると言っても唱える際どう魔力を込めるか、制御するかを把握しなければちゃんと発動はしてくれない。
エルフの里で覚えた魔法は反復に反復を重ね、なんとか無詠唱で出来るほどの研鑽を積み上げたフィンであったが、
人の世界にはまだまだ知らない呪文や文法が沢山ある。
だからこそそ覚えるために資料を買ったのだが、
"ここは力むように"とか
"燃え上がる様に!"とか
"いい感じに流す"
だとか、呪文を唱える際のコツが、適当なニュアンスでしか書かれていないのだ。
しばらく前に火の範囲系束縛魔法『フレイムサークル』を覚えようとしていた時の事である。
説明には魔法の対象に円を描くように火が発生し行動の阻害をする、と言うものだったのだが、
試しに木に使ってみたところ分厚いドーム状の炎が木の周りを覆い尽くし、中を密閉状態にして木を炭化させてしまった。
ちょっとした行動の阻害のはずが、酸欠、灼熱、脱獄不可という必殺の一撃になってしまった。
炭化して木炭になった木は、今では串焼き用の炭火として有効活用している。
炭火が手に入る、とてもいい魔法だと思った。
また使いたい……じゃなくて!!
便利だけれど……やはり本来の用途や正しい使い方はできないのは駄目だとフィンは思った。
「誰かそこの泥棒を捕まえてくれ!」だとか言われた時に、いざ使ってみたら泥棒ごと炭化させてしまいました……なんて、本当に笑えない。
資料のいい加減な書き方で覚えれないなら見て覚えるしかない。
幸いな事に禁断の果実……神格化アイテムとやらで始祖エルフになったフィンは身体能力や魔力と共に、目も魔力の流れが見えるようになっているので実際に見たほうが分かりやすい。
そうゆう訳で今回のクエストを発注したのだ。
「そういえば、フィンちゃんはどの系統が使えるのかしら〜?」
傾国の魔女のリーダー、アマンダが豊満な体をくねらせながらフィンに問いかける。
くっ!なんという破壊力…………!
あーダメダメ!こんないやらしい気持ちになるなんて失礼だぞ!
……でも仕方ないじゃん!前世は男だったんだから!!!
いやでもこっちで生まれて15年……もう約3分の1ぐらいは女性人生やってるしセーフなのでは??
そんな謎理論を展開して心を落ち着けつつ、フィンはアマンダへと返事をする。
「い、一応全部使えます。」
「あらぁーすごいじゃない♪」
「……ふぅーん、全部ね。ま、器用貧乏にならなきゃいいけど!」
フィンの言葉に、アマンダの隣にいた金髪釣り目の女性が先輩風を吹かす。
彼女はクリスティーナ、このパーティの火力担当で炎魔法と風魔法が使えるのだという。
「確かに適正がバラけるほど属性魔法の変換効率は悪くなるって聞きますけど、色んなことが出来る器用貧乏だって立派な個性じゃなーい?」
新人をいじめるなよー、と間延び気味なセリフをクリスティーナに投げかけたのがボーイッシュな防御担当、カリスタだ。
「え、えと……み、みなさん、あそこ……なにか見えませんかぁ…………?」
そして少しおどおどした幸が薄そうのが回復担当のシャーロットである。
みんなそれぞれ毛色の違う美女だなぁ〜
条件的にも視覚的にも良い人達を師にできてよかった!
……そういやシャーロットさん、あそこからなにか見えるって……あ。
「あら本当♪」
シャーロットがおどおどしながら指さした方向からどどどど、大きな音を立ててと何かがやって来る。
「リーバーエルク、4体!」
クリスティーナがそう言いながらカリスタと一緒に前に出る。
リーバーエルク。
ここいらでたまに出現する、行商人たちの馬車を襲い積荷の食べ物を食い荒らすという大きな鹿のモンスターだ。
ドレッドボアのような魔法攻撃は繰り出さないが、その分大きさを活かした突進が強烈な相手だ。
討伐ランク帯はC、Fランクのフィンにとってはまだ相手をするべきモンスターではないが……
「……逃げましょうか?」
一応聞いてみる。
「冗談!小物相手に中級魔法なんて打つよりこっちの方がよっぽどやりがいがあるわよ!
ちゃんと見てなさいよね新人!」
リーバーエルクを前に、不敵に笑うクリスティーナ。
「そーだね、実践形式になっちゃったけどこっちの方がやりやすいやー」
カリスタもクリスティーナに続き言葉を返してくる。
「大丈夫よ♪あの子達ああ見えてちゃんと強いから、いっぱい勉強していってね。」
そう言いながらアマンダが肩に手を置いてくる。
なるほど、そうゆう事ならしっかり勉強させてもらおう。
フィンは2人の動向を見逃さないように意識を集中した。




