ヴェルミーリョと楽しい路上販売(終)
時刻は昼時。
たくさんの人が行き交う街道で、皆が昼飯にありつくため出店や酒場を探し始めている。
あ〜わかるで……腹、減るもんなぁー
ワイもビール、飲みたいなぁ…………
キリンもええけど、今はアサヒの気分やなぁー……
「ってちゃうやん!!何してんねん君ら!!!」
あまりの超展開に処理が追いつかず、街を行く人々を見て現実逃避していたヴェルミーリョが正気を取り戻し、2人に向かって叫ぶ。
当たり前だ。
この前まで魔法ギルドで魔法をかける仕事してた奴と、知識ギルドで本読んだり必要な情報を調べたりしてた奴、
二人揃っておでん屋のような移動式の屋台で、肉を焼いていやがるのだ。
ジョブチェンジなんてレベルじゃないやろ!
しかもめっちゃ繁盛しまくってるやんけ!!なんやこの混み具合は!!!
そんなヴェルミーリョの心情を察したのか、してやったりと言わんばかりにフィンが悪〜い笑顔を作る。
「何って……ふふ、見たらわかるでしょ〜?」
「串焼き売ってるんスよー!」
グリムが串についた肉をひっくり返しながら答える。
「いやそうゆうことではなくてやな!?
……ってちゃんと炭火で作っとるんかーい!!本格的か!!!」
この世界の串焼きは鉄板焼きのような手法で作られるのが一般的で、味は塩味か、焼いた上からトマトソースやデミグラスソースっぽいものをかけたものが主流だ。
不味くはないけれど……日本人としてはやはり焼き鳥のたれのような、あの病みつきになる味付けが……『醤油』が欲しくなるのだ。
でもあんな発酵だの云々しなきゃならない、おまけに完成まで長い時間のかかるもの、この世界では勿論見つかるわけもなく……。
嗚呼くそぅ……串焼き、焼き鳥ぃ…………
炭火で焼いた醤油ベースのたれ……おいしいやつ……醤油……ああくそ、醤油があればなぁ…………
ヴェルミーリョがそんなことを考えているとふいに懐かしく、香ばしい薫りが鼻を刺激してくる。
こ、この匂いはッ!!
それにさっきから周りの奴らが「食べたことのない味付けだ」とか「病みつきになりそう!」だとか言っている。
まさか……
「……もしかしてそれ……『醤油』なんか?!」
「おっ、分かる〜?そうだぞ醤油だぞ〜!!」
「は??え?、どこにあったん?え??……ていうかどうしたんそれ?!」
「はぁ〜?
1年前から作ってたやつが最近ようやく完成しただけだが〜??」
フィンがめちゃめちゃ得意げに答える。
「そんな都合いい事ある???」
「いやぁ〜異世界転生した時の為に醤油の作り方を調べておいてよかったぜ!!
それに実際作る時、一番どうしようかと思ってた種麹も偶然に偶然が重なりまくって手に入ってよかったぜ!!」
「そんな都合いいことあるか?????」
「あったんだな〜これが。あ、味噌も作れるぞ〜」
「都合めっちゃいいやんけ!!!!」
思わず突っ込むヴェルミーリョに、グリムが「どうぞッス」と皿にもられた串焼きを差し出してくる。
齧り付く。そして思わず、
「クッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッソ美味ぇ……」
そう言葉が漏れ出た。
「ふふ、そうだろそうだろ〜!
うちは肉も、狩りの時点から本気で作ってるからね〜」
「狩りの何にこだわったらこんななるんや……」
「ふっ、詳しくは言えないなぁ〜!
ま、極限まで旨味が昇華されているのさ!」
「天才かよ……美味ぇ…………」
ヴェルミーリョが串焼きを咀嚼している間にもフィンとグリムがどんどん客を捌いていく。
バレないように手元が隠れた位置で皿ごと料理を増やすフィンを見て、
やっぱそのスキル、ズルいよなーなんて考えてしまう。
いや実際ズルいやろ。
ワイ自身もそれにあやかって路上販売からここまで登りつめたわけやし。
……ん?あれ?なんかおかしない??
ここでようやく気づく。
なんでこいつらこんな短時間で屋台なんて持ってるんだと。
「その出店っつーか屋台?って何、わざわざ買ったん??」
「ん〜?作っただけだが〜???」
硬い材質で出来た車輪のついた立派な屋台を指差しヴェルミーリョが質問すると、これまた斜め上の回答が腹立つ感じで返ってくる。
「は???作った?????」
「この前、能力のこと話し合ったときにこうゆう事もできるって言ったじゃん」
「そんなん言ったか???」
「言ったんだが〜〜????」
「は〜〜〜??」
思わずため息というか、なんというか。
処理しきれない感情がヴェルミーリョの語彙力を喪失させ、
そして、
「ズッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッル!!!!!!!!!!!!!!」
今日一番の大声をヴェルミーリョは上げるのだった。




