日進月歩Ⅱ
「よう、どないや」
「おう、ヴェルミーリョさん」
ホーキンスがにこにこしながら近づいてくる。
「来客数はどや?」
「ひと月前と比べて段違いだぜ!これがあんたの言ってたブランド力って奴なんだな!」
「まぁそんなところやなぁ。……売上の方は上がっとるか?」
「おう!これもあんたの言ったとおり、最近はポーション以外の商品が刺さってるな!
それに薬草集めなんてしねぇなんて言ってた中堅冒険者も、最近は直接うちへ持ってくるようになるほどだ!!はっはっは!」
「ええやんけ、他の奴らんとこも似たようなもんや。行商ルートの薬草集めも軌道に乗ってきたみたいやしな。
……そしたらそろそろポーションの単価も下げていい頃やろな」
「ええっ!下げちまうのか?!
……安売りはよくないんじゃねえのか?」
「無闇矢鱈にはな。でも、目的があるならええねん。
ええか?他の商品買うって事は、金に余裕が出来てきたって事や」
「?……確かにそうだな」
「余裕があるならポーション安くしたら買うやんか?
そうすっと普段使いたいけど使われへんかった時にあいつら、使うようになんねん。
その積み重ねをさせることで、ポーションはもっと気軽に使えるモノっていう新しい常識を植え付けるんや。
ワイの商品に付加価値付けたのと一緒や」
「な、なるほど!!分かってきたぜ!!」
「……こっからがキツイ勝負やぞ、
こっちは利益を上げたいがポーションの売上が薄くなる。忍耐の時やな。
せやけどこの戦いに勝った時……ゆるやかに値段を戻されていったあいつらはただの薬草集めマシーンと化すんや。
そしてワイらは……」
「甘ーい汁を吸うって訳か……!な、なんてこと考えるんだ……やっぱりあんた、只者じゃねぇな…………!」
やってる事を煙草でイメージすれば分かりやすい。
要は依存性を高めてしまおうねって話だ。
中毒性のある成分も入れれたらいいなーとは思ったが流石に辞めた。
本当なら、外から資源を調達し得した金の配分は消費者側へもっと多く融通し、値段を変えずに消費を促すのが理想的だと思う。
しかし、自分の中でもはじめての試みなので失敗した時ダメージが大きいくならないよう、ひとまず価格の調整は慎重にやることにした。
財布の紐は、自分たちが管理してやるのだ。
話が一区切り付いたところで、ヴェルミーリョが「ところで」と話を切り替える。
「……例の件はどうなったん?」
「ああ!商人ギルドのランク昇級だな!
この辺の奴らはみんなあんたの恩恵を得てる、全員があんたを支持したぜ!
俺も押しに押しといた!立派な個人店を持つような中型商人のランクにはなってるだろうよ!」
ようやく、ようやくここまで来た。
ヴェルミーリョはもっとこの世界を自分の生きやすい環境にしたくて堪らなかった。
でも自分の力ではそこまで大層なことはできない。
だから手に職を付けて気ままに生きていければいいと思っていた。
……友と再開するまでは。
フィンという資源増やし放題の経済効果爆上げ要因が居て、自己破産や失敗のリスクを負わず頑張ったら頑張った分だけ得をする環境に、ヴェルミーリョは心を躍らせた。
自分も儲かる、友達も儲かる。周りの生活も豊かになる。
それが自分の知識、商売で成せる。
最高に唆るじゃないか。
……それなのにどんなに良い商売をしても不当に邪魔され、金儲けの一つもままならない。
そんな現状に苛ついていたのだ。
だからもっと偉くなる必要ががあったのだ。
主に商人ギルドのランクアップは商売の業績や他の商人の推薦などで成就する。
この商売が上手く行ったらホーキンス達に自分を推薦するように、という契約も取り付けていたので、
入りたてのペーペーのランク:小間使いから、三段飛ばしで一気に個人店を持つレベルのランク:中型商人へと駆け上がった。
これで自分を邪魔するものはそうそういなくなる。
待ってろよ……飯がうまくて安全で、嗜好品に溢れた豊かな世界!!
ヴェルミーリョは拳を握りしめ、まずはここまでよくやった!と自分の進歩を噛みしめる。
「あ、そういやよぉ」
ふと、思い出したようにホーキンスが話しかける。
「なんだか最近、あんたの商会だっつって商売してる奴らがいるらしいって聞いたぞ。またなんか新しいことでも始めたのか?」
瞬間、ヴェルミーリョに電撃が走る。
「……あかん!先手を打たれた!そいつ等いつ何処で見たんか分かるか?!」
「お、おう、最近は冒険者ギルド近くの街道に居るって聞いたが……」
ヴェルミーリョの豹変ぶりにたじたじとしながらも、ホーキンスは答える。
「こいつは最速で対応せなあかん事案や!すぐに行ってくる!!
このまま気を抜かんように頑張るんやで!」
ホーキンスにそう告げ、足早に店を出る。
予想より早いがついにこの時が来てしまった。
……他の地区の商人の妨害工作。
ヴェルミーリョのブランド力を落とせばその分集まっていた客はまた他へと流れる、自明の理だ。
いつかされるとは思っていたが、もう行動を起こされるとは。
……しかし、冒険者ギルドの前とはなかやかやってくれるな。
ヴェルミーリョは悔しさから唇を噛む。
あそこは路上から商売を始めた、自分にとって思い出の場所。
でも未だ商業ギルドから取った販売許可の有効期限は過ぎていない!
それを振りかざし、偽物など撃退してくれる!!
「今までのワイはただの大型の新人!しかしたった今からは大型の中型商人や!!
なめたマネした奴はぶちシバいたる!!」
荒々しい意気込みで冒険者ギルドの通りに躍り出たヴェルミーリョは、
そこに広がった予想外すぎる光景に足を滑らせ、派手にすっ転んだ。
「……あれ、ヴェルさんじゃん〜。何してんの?ブレイクダンス??」
「すげぇ痛そうッスね」
目の前で商売してる奴が、知ってるやつだった。
――ていうか、フィンとグリムだった。




