ヴェルミーリョをさがせⅣ
疲弊したフィンを担ぎつつ、
グリムは2つの場所を経由し目撃情報のあった西区まで来た。
「……これで準備は整ったッスね」
手には宿屋に無理を言い借りてきたシーツ……ヴェルミーリョが使っていたものと、知識ギルドで借りてきた一冊の本。
「ようやっと文字の勉強が終わったところで、まだスキルを自在に使えるわけじゃないスけど……やるしかないッス!」
……友を助ける力を。
本を開き、そう心に強く念じる。
するとグリムの心に共鳴するかのように、力強く本が輝き出す。
「お願いします!どうかヴェルミーリョさんを!!」
輝く本から黄金の文字が溢れ、収束する。
そこには軽装に羽つき帽子を被った金髪の青年と、大きな狼が立っていた。
よし!成功したッス!!
ひとまず第一段階、スキル【本で読んだものを取り出す能力】を発動させることに成功したグリムは嬉しさを感じつつほっとする。
今回呼んだ人物は、魔界と同じく識字率向上のため刷られた、この国の絵本「狼使いと癒やしの魔導書」からだ。
実在した人物がモデルで、
呪いをかけられた女性を救うために、青年と狼が「癒やしの魔導書」といわれる伝説のアイテムを探す旅をする、という内容だ。
初めてスキルを使った時と同じような条件の本が選べたのは本当に運が良かった。
グリムが状況を説明するために話しかけようとするが、青年がそれを遮る。
「……なるほど、君が僕を呼んだ訳か。
ああ。人探しで余裕もないって事も分かってるよ、大事な人が捕まっているんだね?」
「は、はい!そうッス!!」
グリムは驚いた。
どうやら自分のスキル【本で読んだものを取り出す能力】で呼び出した人物は、自分の願いや伝えたい事があらかじめ伝達された状態で出てくるらしい。
「私も長居はできないようだし手早く済まそう。
まぁこの私、鷹の目のリースとその相棒、オロスに任せたまえ」
そう言うと青年はグリムからシーツを受け取り、オロスと呼ばれた狼に
嗅がせる。
匂いを覚えたオロスは周りの空気を嗅ぎ出し、迷いなく西区の街を走り出す。
「よし、君の大事な友達を救いに行こう!」
そう言いながらリースはグリムへと手を差し伸べる。
その手を掴んだグリムは固くうなずき、走っていくオロスの後を追った――。
――――――――――――――――
魔力の使い過ぎで疲弊してしまったフィンの自我は、意識の底でゆらゆらと揺らめいていた。
沈んだ意識の中では、思考することすら難しい。
身体にも力が入らない。
周りの状況も分からない。
それでも、自分がやらねばならない事は思い出せた。
否、思い出した。
なんとかしなくては。
まだやらなくちゃいけない事があるんだ。
こんなところでまごついている暇なんて無い。
じたばたと藻掻くが手は何も掴めず、足は鉛のように重い。
そうしてしばらく足掻いていると、不意に何かがちらつくのが見えた。
手足を必死に動かしそちらへと進んでみる。
目の前まで来たところで、やっとその正体に気付く。
それは、普段自分が取り入れている視覚や聴覚、触覚が無くなった事で初めて認識出来るようになったもの。
自分の、魔力の根源であった。
手を伸ばし、それに触れる。
弱々しく、今にも消えてしまいそうな灯火だ。
もっと自分に力があれば……
自分の非力さに涙を浮かべたフィンはその灯火を胸に抱き、願う。
今すぐにでも、この灯火が猛り狂う炎のようになってしまえばいいのに。
そうして灯火を抱いていると、驚くべき事がフィンの身体に起きた――。




