ヴェルミーリョをさがせ
「……やっぱりおかしいよ、なんか起きてるのかも。」
「かも、しれないッスね……」
冒険者ギルドの前でフィンとグリムが呟く。
時刻は午前8時半を過ぎた頃。
いつもなら8時に薬草集めのクエストを受けもう門を出ている時間だ。
朝起きてすぐ、フィンは隣のベットで寝ていたヴェルミーリョが居ない事に気づいた。
すぐ後に起きたグリムもヴェルミーリョの不在に疑問を覚えたが、
その時点では何か用事でもあるのだろう、少ししたら帰ってくるに違いないと二人は考えていた。
――しかし朝食の際にも顔を出さず、
クエストの為冒険者ギルドに行ってもおらずで、流石に心配になってきたのだ。
「ヴェルさんさ、昨日寝る前に『明日も薬草集め頑張ろうな』って言ってたよね?」
「……言ってたッスね、」
「用事あるならそんな事言わないよね?」
「……ッスね。」
「そもそもヴェルさんならさ、用事あったら絶対伝えると思うんだけど」
「ですね。やっぱり何かおかしいッス……」
2人の胸中に嫌な想像が過る。
と、そこに、
「ああ!この人ですよホーキンスさん!あの商人の隣に居た人です!!」
20代から50代ぐらいの幅広い年齢層のグループが、グリムを指さして近づいてきた。
その中でも、一際ガタイの良い大男が前に出て話かけてくる。
「どうも。俺はホーキンスという、この辺の商人のまとめ役をしている者だ。
……あんたら、最近この辺りでポーション売ってた奴の知り合いか?」
「はい、大事な友達です」
「そうッス!今朝から居なくて探してるんです!!」
ヴェルミーリョを知っていそうな物言いに2人は渡りに船だと希望を抱くが、
グリムの『今朝から居なくて』という言葉に、ホーキンスと名乗る男は顔色を悪くする。
「……何かあったんですか?」
ホーキンスの変化に気付いたフィンが何があったのかと尋ねると、
ホーキンスは重々しく口を開き、事情を説明してきた。
ヴェルミーリョという商売敵がこの地区に現れ、ポーションのシェアが彼一人に集中してしまった事、
それによって損を被る商人たちが続出し、生活に危機を感じはじめた事。
そして、我慢ならなくなった彼らが結託し、ヴェルミーリョに対して暗殺者を雇ったらしい事。
「……俺の管轄でそんな事する奴ぁ居ないと思いたかったが、事が事だからな……
そのヴェルミーリョって商人を保護するために探してたんだが……こんな事になっちまうなんて」
「そんな……」
ホーキンスの言葉にグリムの顔が青ざめる。
一方フィンは暗殺者を雇うような商人達に、怒りで頭がどうにかなりそうになりつつも、どうにか考えを巡らせる。
そうして行き着いた一つの疑問をホーキンスにぶつけた。
「……この辺の人達は報復で人を殺す時、いちいち攫ってから殺すんですかね?」
「そ、そりゃあ雇われた暗殺者や殺しの依頼の内容次第だろうけどよ……雇ったかもしれん商人達の性格的に、
攫ってから痛めつけて殺すような趣味の奴は居ねぇ……と思うぜ」
フィンの凍て付くような怒りの眼差しに戦々恐々としながらも、ホーキンスは答える。
「それが本当なら、何かしらの理由があって連れ去られてるのかもしれない。
……殺すだけなら、宿屋のベットの上でいいんだし」
余裕のなさそうなフィンの言葉にグリムはハッとする。
「そうか!じゃあまだ殺されてないかもしれないって事ッスね!!」
宿屋にヴェルミーリョは居なかった。
犯人からも、なんの伝言も書き留めも無かった。
その上で暗殺者に狙われたのに宿屋で殺されていないという事は、
何かしらの理由があり、その場で殺されず連れて行かれたのかもしれない。
「……希望的すぎる観測だけどね。
……ところで、あんた達はその事情を冒険者ギルドや国の憲兵にもう伝えたのかい?」
「…………いいや、まだだ。」
ホーキンスそうが言った瞬間、
ギリギリで堪えていたフィンの怒りが限界点を超えた。
烈火の如く魔力が吹き荒れ、髪が爛々と光を帯び輝きだす。
フィンの変化に商人たちが後ずさるが、既に遅い。
フィンが商人達に片手をかざす。
ただそれだけで、ホーキンスを含めた商人達全員が胸ぐらを捕まれたかのように宙に浮かんだ。
フィンから出た風の魔力の塊が巨大な腕のようになり、全員を握りつぶすように拘束したのだ。
「がッッ?!?!!!」
「……人の命が掛かってるのに、自分の身可愛さに黙ってたって訳?」
恐ろしく低い声で喋る目の前の少女に商人たちは恐怖し、弁明の声を上げ始める。
「ち、違う!!憲兵は事件が起こってからじゃないと動いてくれないんだ!!だから!!!」
「冒険者だってクエストを頼んだところで受理されるのに半日はかかるだろ!!
緊急で頼んでもすぐには動いてくれないんだよぉ!」
必死に弁明する商人たちの声に、外野がなんだなんだと集まってくる。
流石に不味いと判断したグリムがフィンの肩に手を置きなだめた。
「フィンさん……ギルドの前でこんな事してたら流石に捕まっちまいますよ、」
「……そうだね分かった。もういい。」
フィンが商人たちを地面に降ろす。
商人たちは目の前の少女の『もういい。』という言葉に最悪の想像をし震え上がる。
そんな商人たちへと近づき、ひとつ深呼吸をしてからフィンは語りかけた。
「貴方達が今まで何処を探し、これから何処を探すのかこっちに教えて下さい。
そして冒険者ギルドには、理由を隠してでもいいので人探しのクエストを発注してください。」
「あ、ああ……必ずやるよ」
それと、と付け加えフィンが商人達全員の顔をぐるりと見渡す。
「……貴方達の顔は覚えました。
僕の友達を見つけれなかった時と、見つかっても最悪の場合だった時は、僕は……貴方達を絶対に許さない。
……それだけです。早く探しましょう」
そう言ってフィンは、グリムを引っ張って歩き出した。




