ヴェルミーリョと楽しい路上販売Ⅱ
「ホーキンスさん!大変だ!」
聞き慣れたの声が家の扉を叩いてくる。
俺、ラドロウ・ホーキンスはそいつをうっとおしく思いながらも扉を開けた。
「……なんだパブロ、また賭け事で金でもスッたのか?」
「ちげぇますよ!」
「じゃ奥さんに愛想尽かされて出ていかれたか?」
「ちげぇますよう〜!!」
パブロは汚え身なりで金の使い方も荒いどうしようもねぇ奴だ。
しかし商人ギルドに登録してるれっきとした商人、ポーション屋だ。
「じゃあなんだってんだ、こんな真っ昼間から仕事もせずに。どうせ酒でも飲んでたんだろう?」
「飲んでたの否定しねぇですけど……俺ァさっきとんでもねぇ商売してた奴ぁ見たんですよ!
だからあんたに、俺達のまとめ役であるあんたに伝えなきゃいけねぇと思ったんだよ!!」
「あーわかったよ……そりゃご苦労なこって」
俺はこの大都市アラーラの北東区、
冒険者たちが入り浸るこの区画で商売をしている奴らのまとめ役をやっている。
面倒見が良いだとか見た目が強そうだとか、そんな適当な理由で周りの商人仲間から推薦され、
店もそれなりに売上があるせいで商人ギルドからも妙に信頼されてしまいこの役職に就いているのだ。
「あーなんだ……それで、とんでもない商売だって?」
どうやらパブロが言うには、ポーションをひとつ4銀貨ぽっちでバラまくトンデモ安売り商人が現れたのだという。
確かにこの地区は扱う商品が冒険者寄りになる為ポーション屋は多い。
もしそんな奴が現れたら商売上がったりだろう。
しかしだ。
「お前なぁ……、どうせ昨日も一昨日もその前の日も飲んでただろう?」
「俺の話を疑ってるんですかい?!し、信じてくれよぉ!」
「ああ、信じてるさ。でも飲んでただろう?おんなじ時間におめぇがブラついてて、その安売り商人は居たか?」
「い、居なかったけどよぉ。」
「それが答えだよ、世の中そう上手くいかねぇように出来てるモンだ。
そいつぁきっと一過性のもんに過ぎねぇ。
これまでコツコツ作ってた在庫を一気に掃きたくて安売りしたんだ。
どうしてもすぐ金が入り用だったんだろうさ」
「な、なるほど……」
「きっともう来ねぇよ、来たとしても長くは続かねぇはずだ。
だからお前もさっさと帰って働きな!」
そう告げ、パブロを帰宅させる。
しかし3日後、
「ホーキンスさん!大変だ!」
再びパブロがやって来た。
次来ても長くは続かねぇと言ったじゃねぇか!と追い出した。
その2日後、
「ホーキンスさん!大変だ!」
お前は堪え症のねぇやつだな!と追い出す。
そこからまた2日後。
「ホーキンスさん!大変へぶッ!!」
「おんなじ台詞を何度も吐くんじゃねぇ!!ニワトリかてめーは!!!」
イラっとしてぶん殴った。
「その件は明日か明後日に直接俺が出向いて話つけてやるから、それまで家で仕事してろ!!」
パブロは鼻血を出しながら酒瓶片手にフラフラと帰っていった。
そして次の日、
コンコン、と家の扉がノックされた。
「だから何度も来るなって――!」
乱暴に扉を開けるそこに立っていたのはパブロではなく他のポーション屋の奴らだった。
「大変ですよホーキンスさん……」
そして俺は、本当に大変なことを聞いた。
パブロと同じく、一部の不満を持つ商人たちが、件の安売り商人に対して暗殺者を雇ったらしい、と――。




