異世界転生、ぷちとま
イシュト歴1465年、フィンドゥリルことエルフのフィンは村長の次女として生を受けた。
そして現在は1478年、御年13才である。
「ふふ、ふふふふ、計画通り〜なのだぜ」
フィンは鏡の前で自分の体型を確認しつつニヤついていた。
歳の割にはスレンダーかつ出ているところは結構出ている。
今のままでもそれなりに扇情的ではあるが向こう十年の成長がさらに楽しみ、といった所であろうか。
「せっかく美人で長寿と名高いエルフに転生したんだし、第二次成長期はしっかりとバランスの良い食生活を心掛ければ…!」
「未亡人感出てるスーパー美人エルフにおれはなる!!」
そう、ぷちとまはエルフに転生していた。
前の世界で語り継がれる小説や映画のように、この世界でもエルフという種族は弓の技量が高く、長寿で美しいといった特徴を持っていた。
特筆すべき事があるとすれば。
この世界のエルフには悪しき魔王に抗う光の勇者が現れた時、
その勇者に力を授けるための”禁断の果実”なる物を受け渡す重大な役割があるらしい。
……そしてその日が来るまで世界の果てと言われるこの森、
「彷徨いの森」にて禁断の果実を守っているのだという。
まぁ、詳細にある程度食い違いはあるがだいたいは認識として合っているので、
前世の記憶を持つ者としては比較的この世界に溶け込んでいけるだろう、と本人は思っている。
……実際周りからはそう思われていなかったのだが。
―エルフ里の朝は早い。
ほとんどの家庭では女は5時頃に起床し飯の準備をし、一時間ほど経つと男が起き出し皆で朝食を取る。
その後男は弓を片手に狩りに出かけ女も森に木の実や山菜を取りに出かける。
昼過ぎにはどちらも帰り女は夕飯の支度や手すきのものは裁縫などをし、男はその間弓の手入れや手に入れた獲物の処理をする。
夕飯後は村の中央にある、禁断の果実を育てる神樹と地脈をリンクさせている特別な大樹に祈りとマナを捧げ就寝する。
就寝は体感でだが夜の7時頃で現代日本に比べれば大層質素なものだが、逆に言えばのどかでのんびりとしていた。ブラック企業勤務であったぷちとまにとっては居心地のいいスローライフであった。
ひとつ、問題があるとすれば。
「最近また森に侵入者が出たんですってね、怖いわ…」
「ダークエルフ達は一体何をしているのかしらね。全く、戦闘でしか役に立たない粗暴な連中のくせにね。」
先に述べたこの世界固有の設定のようなもの、
つまり禁断の果実を守る者達についてだが、
エルフという枠組みには "ダークエルフ" も含まれているのだ。
2つの種族がこの森で共存し、禁断の果実を守っている。
それぞれの種族が役割を分担しており、
森の外縁部を火魔法、土魔法、闇魔法、そして近接戦闘術を得意とするダークエルフ達が幻惑系の闇魔法や攻撃系の火魔法、土魔法で守り、
風魔法、水魔法、光魔法、弓での遠距離攻撃を得意とするエルフが果実の状態を維持し、有事の際には共に戦うというスタイルを取っているのだ。
このスタイルは一見理にかなっているように見えるが
生活圏がそれぞれ森の外縁部、内縁部と分散しており定められた会合等以外ではほとんど両種族が干渉することが無く
恐らくお互いが見えていない苦労している部分への不満が募っているのではないかとフィンは感じていた。
……過去に自分の考えを口にした時、その場にいた年上のエルフからは白い目で見られ、両親からも厳しく叱られた。
正直に言えば夕飯の後に祈りを込めてマナを捧げるのはベッドに入れば一瞬で寝落ちしてしまうぐらいしんどいし、フィンも好きではない。
だがダークエルフ達が森の外縁部を常に侵入者が居ないかを捜索しているのもなかなかに大変ではないのだろうか。
捜索に割く人員が多ければ狩りでの食料の調達や衣服の修繕や、色々なものを切り詰める事になるのではないのだろうか。
スローライフに満足している一方で周りのエルフたちが他人や他種族を尊重したり協力したりする事に寛容でない事態に、
まるで中小企業の部署間のいがみ合いだなぁ……。と、昔を思い出し歯がゆい気分になるフィンであった。
―そろそろ夏が来る。九年に一度の「子換えの儀式」が始まる。




