ヴェルミーリョと楽しい路上販売
次の日、昼過ぎ――。
「さぁ買った買った!うちは何処よりも安く売りまっせー!!」
甲高い声でヴェルミーリョがポーションを売っていた。
ヴェルミーリョの横にはグリムが。
一応ポーションはそれなりの額なので、万が一襲われたり盗られたりするかもしれない。
図体のでかいグリムに金を払うからと、ボディーガード役を頼んだのだ。
質素な布を床に広げた簡易的な路上販売という形であるが、ヴェルミーリョにとっては初めての個人営業である。
気合は十分、掛け声には自然と力が入り珍しい関西弁も相まって歩く人々の目に止まってゆく。
その中の一人、物珍しさに見物していた冒険者が野次を飛ばして来た。
「なんだお前さん、値の貼るポーションなんざ売ってんのになんでこんな路上販売なんかやってんだー?
普通薬屋や調合屋の店で売ってるもんだろー!
もしかして粗悪品でも売ろうってのかー?!」
「いやぁ!よくぞ聞いてくれました!
ワイはまだ冒険者兼、駆け出しの調合師なんでまだ自分の店を持ってねぇんですー!
せやけど!この辺の店よりはええ品作ったつもりなんですわー!」
野次にイラつきもせず、むしろ待ってましたと言わんばかりにヴェルミーリョは営業スマイルで答える。
折角だからとその冒険者を手招きし、自分のポーションの宣伝に使うことにする。
「にいちゃん、冒険者やろ?そんなにワイのポーションの中身疑ってるんやったら試してみてみぃや〜」
徐に冒険者へとナイフを手渡し、
「もしも傷も治らない粗悪品やったら治療費、迷惑料込みで金貨5枚はお支払いしまっせ」
と付け加える。
野次という売り言葉に対してうまい具合に買い言葉を当てられた冒険者は
「よし、その言葉忘れんなよ!」とナイフを受け取り、自分の腕を傷つける。
そしてヴェルミーリョのポーションを数滴、傷口に垂らす。
するとあっという間にナイフで付けた傷が消え、跡も残らず治るではないか。
「すげぇ、めちゃめちゃいいポーションじゃねーか。しかも薄めてねぇ!」
ポーションの効果に男は驚く。周りにいた見物客からも「おお!」と声が上がる。
当たり前や、と内心でヴェルミーリョは思う。
自分が作ったポーションの中でも最高の品質の物、
そして本来原液と水で薄めるはずの物を薄めずに瓶に詰め、フィンに増やしてもらっているのだ。
他の店での市場調査もして来た。
間違いなく今自分が作ったポーションがこの街一番の出来なのだ。
負けるはずがない。
「……これ、いくらだ?」
野次を飛ばしてきた男が真面目な声で聞いてきた。
「ほんまやったら1個銀貨6枚のとこ……今日だけ銀貨4枚やで」
かかった獲物に内心でガッツポーズを取りながら、ヴェルミーリョはニッコリと笑顔で答えた。
普通のポーションの原価が日本円で3000円程度、銀貨3枚だとして
市場価格は5500円〜6500円、銀貨6枚前後、加工費や人件費を考えればまさに適正価格である。
それを採算度外視、一個あたりの利益が3分の1しかない銀貨4枚で売るのだ。
『まぁ、ワイは初期投資が実質たったの3銀貨で純利益はフィン君との取り分の差し引き、ボディーガードで雇うグリムくんの分差し引いてもそっから先は売った分だけ無限に増えるけどなァ!!
ホンマに元手ほぼゼロとか最強やろ!!
オラ喰い付け!さっさとこの旨すぎる飯に喰い付いて飼いならされろや!!ww』
心の中でそんな声を上げながら、ヴェルミーリョは相手の返答を待つ。
「かっ……」
「かー?w」
「買う!!10本くれー!!」
よっしゃあああああああ!!!!
「まいどー!w」
「ぼくにも売ってくれ!」
「私も!20本買うわ!」
「オイラも!!」
冒険者の兄ちゃんの購入を口切りにどんどん人が集まり、200本の在庫はものの十分程度で売り切れた。
噂を聞きつけた他の冒険者が売り切れた後にやってきたので3日後にまた在庫を用意してやって来ると伝えヴェルミーリョとグリムは帰路に着く。
「最高やな、異世界!
たかだか数十分で200×4銀貨の80金貨の設けや!人生クッソチョロいな!!」
「流石ッスねヴェルミーリョさん!俺ならあんなに上手く売れないッスよ」
「へへへ、まかせろって。
……次は5銀貨10個で2個オマケ付きのダース売り戦略やな」
「末恐ろしいですわ」
「皆ハッピーやからええんや、win-winや……あ、これグリムくんの取り分な」
そう言いグリムへ20金貨を手渡す。
「ええっ!こんなにいいんすスか?」
「外部の人間取り入れてフィンくんのスキルバレたら困るからな。
時間割いてくれるグリムくんにはマジで助かっとるんや。
図体もデカいし悪魔やから下手な冒険者よりも力あるし、
怖い顔して立っとるだけで相手も下手に手ぇ出して来んしな。」
それに、とヴェルミーリョは付け加える。
「ワイは金儲け以外のどーでもいい部分、興味沸かんとこは全く勉強する気せえへんのよね、
いずれ違う国とか行ったりしたらそこの歴史だとかさ、欲しい情報の為にまるまる調べんの嫌やし。
でも君に聞いたら調べて教えてくれるやろ?」
「それはもちろん。
俺は知らないことがあると調べる質ですし、歴史とかそうゆうの好きッスからね」
なんのきなしにグリムが答える。
「そん時に知識ギルドのランクが足りずに欲しい情報得られませんでしたじゃ困るやん?
ランク上げって本の書き写し以外にも結構金要ったりするらしいやん?
だから先行投資も含めて多めに渡しとんねん」
「なるほど……win-winッスね!」
「せや、win-winや!w」
2人は笑い合い、泊まっている宿へと歩く。
その姿を物陰に隠れ伺う影がひとつ。
「あの商人……なんて奴だ!このままじゃここのシマが荒らされちまう!ホーキンスさんに伝えねぇと……!」
そう呟いた男は急ぎ足で、人混みの中へと消えていった。




