蠢く策謀
大都市アラーラの酒場でヴェルミーリョ、フィン、グリム達が流血沙汰を起こしながらも仲間の絆を深めあっていた頃――。
「くっ、こんな小汚い場所に泊まらなければならないなんて……!
この辱め、絶対に許しませんわ……!いずれ必ず……必ず貴女を見つけだし!報いを受けさせてやりますわよ、フィン!!!」
期限付きで村を追放されたアグラリエルが、名もなき農村の安宿で憎悪の声を上げ、
――ニストラ地方、ヴェスト修道院では、
「……なぜ貴女がこんな事を…………うっ!……」
床に倒れて痙攣している年配の修道女が、同じく修道女の姿をした若い女性に足蹴にされていた。
「なぜ?!こんなに飯も不味くて時間にうるさい生活!
清貧、従順、貞潔ゥ?!そんなものクソくらえよ!!
私にはもっと輝かしい未来があって然るべきなの!!」
女の手から霧のようなものが伸び年配修道女を包む。
「……自白剤を貴女に吸わせたわ。今すぐここの大門の鍵の在り処を言いなさい。
私、今すぐここを出てやらなければならない事があるの」
意識の混濁した年配修道女から鍵の在り処を聞き、牢獄のような修道院から女は開放される。
が、自由になったというのに女は怒りの感情を爆発させた。
「私の夢をぶち壊し……あまつさえこんなところにブチ込んだアイツだけは許さない!
ヴェルミーリョ……!パワーアップしたこのスキルで……今度こそあんたをぶっ殺してやる!」
ヴェルミーリョによって修道院送りにされた実の妹、そして異世界転生者でもある女、イレーネが吠えた。
そして、遥か遠くの魔大陸の最深部、
魔王城にて。
「イグニオの奴はやられたんだって?」
王座に相応しい豪奢な長椅子に座り、つまらなそうな声で事実の確認を取る者が。
「ハッ、一騎打ちの際に彼は旧魔王の右腕にやられまして……」
それに受け答えするのはイグニオの率いる軍団の副隊長であった女魔族だ。
正直自分が責められるのではないかと気が気ではない。
「ふぅん。やたらと自分を売り込みに来たから四天王の空席にあてがってやったけど、大したことなかったみたいだねー」
「ハッ、魔王様のおっしゃるとおりで……」
魔王と呼ばれたその魔族はハァ、とため息を付く。
「その旧魔王の右腕、使えるなら欲しかったんだけどなー」
「は、しかし何分、双方満身創痍だったようでして……治療も虚しく……」
「ああ、ヒータを攻めてるわけじゃないよ?」
「勿体なきお言葉……!」
ヒータと呼ばれた女魔族は冷や汗をかく。この方の気分次第で自分の首など簡単に飛ぶだろうとわかっているのだ。
「そういえばさ、報告書も読んだんだけどー」
びくり、とヒータは震える。
隊長のイグニオは誇りをかけた魔族同士の一騎打ちで回復アイテムの使用など、卑怯な手を使った。
あいつのせいで自分たちの隊全員が処分される可能性もありえるのだ。
余計なことを……!
ヒータはすでに死んでいるイグニオに対し内心で悪態をつく。
しかし予想に反して魔王の興味は他の部分に向いていた。
「旧魔王の右腕に寄り添っていた魔族の青年から光が溢れ、その後一瞬でカタがついたって書いてあるねー
……この魔族はどうなったの?」
「は?……あ!ええと……それが、数日の間に行方をくらませたそうです、村人によるとなんでも、魔大陸の外に行ったとか……」
「ふーん。面白いね」
魔王は報告書をみながら「うん、」と頷きヒータに向き直り、
「会ってみたいから探してきてくれるかな?
魔大陸の外って事は人間の街とかにいるかもしれないし、そうじゃなくてもきっと目立つだろう。
大勢で行くと人間たちを刺激するから、変身能力を持つ君に頼みたい。……出来るかな?」
「魔王様の、ご命令とあらば」
命じられれば行くしかない。
たとえ砂の中からひとつぶの金を探すような途方のないものだとしても。
ヒータはまだ相見えぬ魔族、グリムへと
なんでそんな所まで遠出したのよ!!と心の中で悪態をついた。
酒場で馬鹿騒ぎをするヴェルミーリョ、フィン、グリム達の預かり知らぬ所で、
三者三様の宿敵たちが今、動き出す――。




