異世界転生、ぶんぶんの苦悩
イシュト歴1479年、ブンブンことはグリムは悩んでいた。
「どうすりゃいいんだ……」
途方に暮れているその青年はかなりガタイが良く身長も高い。
ついでに言うと肌の色は浅黒く背中には悪魔のような羽根が、
腰から下は黒い体毛で覆われており悪魔のような尻尾もあった。ていうか悪魔だった。
ブンブンは魔族に転生していた……。
「やっぱダメなのか……」
グリムは自らに与えられたスキルを試していた。
第一~第三までの希望の中で与えられたスキルは恐らく、
第一希望のスキル「本で読んだものを取り出す能力」だ。
恐らく、というのは彼が転生した先、魔族の住む領地には本どころか文字を使う文化すらなかったからだ。
他に希望で書いたスキルが不発だった以上、消去法でこのスキルを与えられたのだと理解した。
途方に暮れるのにも疲れたのでさっさと帰路に就く事にする。
周りにはじゃれあいを通り越した闘いに興じる者、狩ったモンスターに生のままかぶりつく者、
何を言っているかわからない者、色々だ。
だいたいの魔族には食欲、性欲、睡眠欲の三大欲求に加えてふとした時に訪れる破壊衝動がある。
つまりここの生活はめちゃくちゃなのだ。やりたい放題なのだ。死人が出る事だってそこそこある。
このやりたい放題な空間で生き抜いていくためには
「単純に強い魔族」になるか何かしらの役割を持った「いないと困る魔族」になるかの二択だ。
グリムが選んだのは後者。
困っている魔族の為に簡素だがかまどや貯水が出来る瓶などの生活用具を整えたり
冬越え用の干し肉を作ったり食べれる野草を探して分け与えたりと何でもやった。
恐らく気づいていないが魔族の身体の毒耐性と、前世に見ていたディスカバリーなサバイバル番組には感謝してもしきれなかった。
今日もいつも通りの日常だな、そう思いながら歩いているグリムはふとある方向を見やる。
周りの家より一回りも二回りも大きく、少し寂れている家―この地の領主の家だ。
「ん……?」
よく見ると倒れている人が居る。あれは―
「領主の爺さん!」
グリムが駆け寄るが
「ええいいちいち騒ぐな!鬱陶しい!」
手助けしようと駆け寄るが怒鳴られる。そういえばこの爺さんはこんな人だったっけか。
二度三度ほど話しかけたことはあるが取り付く島もなく怒鳴り返されるだけだったのを思い出す。
しかし倒れている老人を放置するほどグリムは人間、いや悪魔が出来ていなかった。
「あんたももう歳なんだから無理せん方がいいでしょうが…」
肩を貸して家の中まで運ぶことにする。
「儂に恩でも売ろうというんか!ええい自力で立てるわい離さんか!」
「あんたが死んだら村の皆だって困るんすよ~~!」
「村の奴等なぞ知るか!儂から離れろォ!!」
家の中に入り椅子に腰かけさせる。
「それじゃあ俺はもう行くっスよ…爺さん安静にしてなね。」
そう言って家から出る直前にふと不自然なものが移った。
「本……?」
そう、本である。思わず口に出してしまった。爺さんが反応する
「そいつぁ儂が殺しまくった魔術師どもの持ってたもんじゃ!やりゃあせんぞ!」
「爺さん!!!」
ついに見つけた、求めていた物を。
「あの本、貰っていいッスか!」
「今さっきダメって言ったばっかじゃろうが!!!しばくぞ!!!」
爺さんも大概話が出来るような魔族ではなかったが、そこはグリムも同じ魔族。そこそこに話を聞かない男であった。
「貰えるまで爺さんの世話するからくださいッス!!この部屋汚いしとりあえず明日は掃除しに来ますんで!それじゃまた!!」
「話を聞けよ若造!!!!!あっ勝手に納得して帰るのやめんか!!!!オオオイ!!!」
元気に走り出す人助けばかりする変わり者の悪魔の後ろ姿に、
爺さんことバーンズのむなしい声が響くのだった。




