そして集いし(星)屑たちⅡ
「う~ん……」
頭をさすりながらフィンは起き上がる。どうやら飲み過ぎで寝てしまったらしい。
二日酔いかな?随分と頭が痛いような……
「っていうか後ろから殴られてたじゃん僕!!!!!!!!!!」
ハッとして起き上がり周りを見渡すとそこは地下牢のうような場所であった。
手には魔力封じの腕輪。
「またこれか~……」
腕輪を見ながらはぁ、とため息を付く。
ひとまずフィンは状況を把握してみようと努める。
どうやら僕は捕まったらしい。でも捕まるようなことをした覚えはない。
直前の行動はヴェルさんとの飲み……ヴェルさんは…………
その先を考えたくなくて口をつぐむ。
それでも声が絞り出すように漏れ出てしまう。
「僕、ヴェルさんに売られたのかなぁ……」
「売ったゾ」
「あえっ?!」
牢の上側、空気を入れるための格子穴から先程まで飲み交わしていた相手の声がした。
「……ひどいよヴェルさん。どうしてこんなことしたのさ。」
「ちょっとした小遣い稼ぎやて。さっき飲んでた時さ、お互い金無いよな~って話もしたやん?金、欲しいやん??」
フィンが半目でヴェルミーリョを見ながらいじけたような声で問いかけるが、当人のヴェルは飄々とそれを受け流す。
「だからって人身売買って!……もうちょっと色々あるじゃんか」
「ごめんて。ま、エルフに生まれた君も君やけど絶対逃げれる自信あるからやったんやて、大丈夫やって。
奴隷市場も下調べして出荷のタイミングも分かっとったし。すぐ出したるからまぁまっとけって」
本当に悪意があって自分を売り飛ばしたわけではない、という真意が分かったのでひとまずフィンは溜飲を下げる。
まぁ悪意がなかったとしても普通人を売り飛ばすなんてことしないと思うけどね!
「……分前は僕が7、君が3だぞ」
一応まだ怒ってはいるので、ジト目で自分優位の取り分の主張をしてみる。
「別にええぞ。それでも十分過ぎるしな」
「一体僕はいくらで売られたんだ……」
エルフとしての自分の値段は相当に高いみたいだ。
「とりあえず……はやいとこ此処から出ちゃおうか」
エルフの里でかつてやったように魔封じの腕輪を叩きつけて壊そうと腕を振り上げるがそれをヴェルに制止される。
「待て待て!めっちゃ音出てバレるやん!!君より強いやつとか出てきたら死やが??もしかして脳筋かぁー???」
「も~!じゃあどうすんのさ~~」
「ワイのスキルで……ちょっとまて、誰か来たみたいやぞ」
ヴェルの声で牢屋の外に意識を集中させると、確かに誰かの足音が聞こえた。
「見張りも寝静まる時間のはずやのに……ひとまず怪しまれんようにな!」
「あ、ちょっと!!」
ヴェルが格子からサムズアップして姿を引っ込んだ。
ちくしょう、もう腕輪を壊して暴れてやろうか?とも考えたが直前に言われた
「自分より強い人間が相手に居たら」という問いかけにフィンは腕を元の位置に戻すしかなかった。
足音と明かりが次第に近づき、目の前で止まる。
こちらを除く影は3つ。頭にターバンを巻き髭を生やした、いかにも奴隷商人という顔をしている者が1人。
その両脇に、商人を守るように付き従う筋肉が盛りに盛り上がったスキンヘッドの護衛が2人いた。
強そうだ。ていうかすげー悪いやつみたいな顔をしている。多分ほんとに悪いやつだと思う。
こんなに貫禄があるんだから、やっぱりもしかしたら自分より強いかもしれない。
こっちは見た目少女だし、ヴェルさんの言う通りとりあえず言うことを聞いていたほうがいいかもしれないと思った。
「起きたか、うん、やはり素晴らしく良い顔立ちをしている。」
「ど、どうも……」
あれ?もしかして意外といい人なのでは?褒められたしね??
「今までで一番良い値で売れそうだ!誰かに奪われる前に早々にこのエルフを王都へ運ばせよう!
お前たち!傷はつけないよう馬車まで連れて行け!」
前言撤回!やっぱり全然いい人じゃない!!全然悪い人だ!!!
スキンヘッドの男に身体を縛られひょいと抱えられたフィンは
「やだ~!!!!うわ~~!!!!助けてよ~~~~!!!!」と叫びながら、あえなく連れて行かれるのであった。




