【悪魔編】グリムと本と、堅物じじいⅤ
力が入らねぇ……
イグニオの魔法攻撃の前に倒れたバーンズはなんとか起き上がろうとした。
しかし、身体は一向に動かない。
最大火力の魔法を身一つで受け止め、残った魔力をすべて使った一撃も放った。
既に目を開けようとする事ですら難しい。
……?
何かが自分の顔に落ちてきた。
熱い水のような、何かが。
熱く、優しい何かが自分の身体を包む。
やっとの思いで目を開けたバーンズはしわがれた声で呟く。
「悪魔が……泣いてんじゃねぇ、よ…………」
そこには大粒の涙を流し自分を抱きかかえるグリムの姿があった。
「じいさん……まだ死んじゃダメだ!まだ……まだ助かる!!」
声を震わせながら励ましてくるグリムの手を握り、
「ジジイに、そんなに期待するんじゃねぇよ…………でもよ、
こんな偏屈な老いぼれなんぞに……いちいち構ってくれてよ…………ワシは、ワシは嬉しかったぞ……」
「偏屈なんかじゃねぇっスよ!!俺だって……俺だって…………もう、何も言えねぇぐらい色々貰ってんすよ……感謝してんスよォ…………!!」
バーンズの家で働き詰めてから一年。
最初こそ目的のため、利害のためと関わりを持った二人だったが、
魔族の癖に愚直なまでに真面目で素直なグリムの人柄にバーンズの心は癒やされ、
グリムもまた分からない事や困った事があった時、なんだかんだ助言や答えをくれるバーンズを慕っていた。
お互いがお互いを、大切な存在として認め合っていたのだ。
「くだらない!実にくだらないなぁ!!!!」
二人の会話に割って入るように、イグニオが叫び散らす。
「この世界は力が全て!!小汚い誇りだの絆だの、くだらない負け犬の慰めあいにしか過ぎない!
どんな事をしてでも……最後に勝ったほうが全てなんですよォ!!」
イグニオの両手から魔法の光が溢れる。
「そんな事も分からない頭の硬いゴミどもは全員殺してやります。
くたばり損ないも、私を批判した有象無象も、お前のような無能なゴミ虫も……」
決闘の反則行為に非難を上げた村人達が震え上がる。
「……ワシが弱いばっかりに……お前を、お前を巻き込んじまった…………」
爺さんの、バーンズの目から涙が溢れる。
「……あんな奴、に…………あんな奴などに負けたなど…………悔しくて、悔しくて仕方ない……でもワシにはもう何も……何も残っておらん…………ッ!」
今にも消え入りそうなバーンズの呟きに、グリムもまた涙する。
自分にもっと、力があったなら。
あの外道を倒せるのに。
村の皆を守れるのに。
爺さんの心を、救うことが出来るのに!!!
心に強くそう思った時、グリムの持つ絵本が光りだした――。




