【悪魔編】グリムと本と、堅物じじいⅣ
バーンズの家に着いたその瞬間に、彼が黒炎に飲まれるのを目の当たりにしたグリムは叫ぶ。
「じいさぁぁあん!!!!!!」
遅かった。
間に合わなかった。
こんな事になるって知っていたなら……
様々な感情が入り乱れつつも呆然と立ち尽くす。
誰もがバーンズは死んだと思った。
しかし――
「うおおおおおおおおッッ!!!」
炎の中から雄叫びが上がる。
「馬鹿な!!!」
技を放っていたイグニオが驚愕しつつも下がろうとした瞬間、声の主がイグニオの肩を掴み――
「くたばりやがれぇ!!!!!」
文字通りの全身全霊、全魔力をつぎ込んだバーンズの正拳がイグニスの顔面を捉えぶっ飛ばした。
「ゼェ……ゼェ…………一発、いれてやったぞ……我が王よ…………」
体中に火傷を負い満身創痍となったバーンズがうわ言のように呟く。
最早意識を保っているだけでもやっとだがしかし、魔族同士の決闘は死ぬまで終わらない。
重い足取りでイグニオが吹き飛んでいった瓦礫へと近づいていく。
顔面、正確には顎を撃ち砕いたのは万が一魔力を温存されていたとしても呪文の詠唱をさせない為。
ここまで持ち込めばもう勝負は五分五分、
身体が傷ついているなんて関係ない。
最後に残った勝利の要因、気持ちで勝っていさえすれば――――。
強い信念を持ち、確固たる勝利を確信したバーンズだったが、瓦礫から出てきたイグニオを見て、表情が歪む。
「てめぇ…………そこまでして…………ワシら魔族の決闘を……誇りを汚すか……!」
イグニオから蒸気のように煙が沸き立ち、半分吹き飛んでいた顎が再生していく。
その様を見た村人達が避難の声を上げる。
「あいつエリクサー使いやがったぞ!!」
「きたねぇぞ!!!」
「正々堂々戦いやがれ!新魔王の負け犬幹部がよ!!」
ごうごうと飛ぶ野次にイグニオはまだ治りきっていない顎を動かし叫ぶ。
「うるひゃい!!だまへ!!!愚民どもがは!!!!!!
おまへたち無能どもは、てんさひであるぼくの存在意義をりかいしてなひゃいんだよ!!!!
ぼきは、こんなひょころで死んでいい魔族じゃなひ!!!!
しぬのはこの老いぼれのほうがふさわしひんだよォ!!!!!!!」
「グッ……この魔族の恥さらしめが…………!」
再び拳を振り上げようとするバーンズだったが、足に力が入らず膝を付いてしまう。
それを見たイグニオはにやりと口を歪ませる。
顎の再生は完了していた。
「今度こそくたばれ!老害がぁ!!」
イグニオが放った魔法の熱光線が、バーンズの腹を貫く。
「ごふッ!」
先代魔王の右腕は、力無く地面に崩れ落ちた――。




