【悪魔編】グリムと本と、堅物じじいⅢ
「ちぃッ!!」
飛んできた攻撃魔法を躱そうとバーンズが身を捻る。
しかし躱した先へニ撃目の魔法が間髪入れずに突き刺さる。
「がぁッ!!」
――体が軋む。
意識を持っていかれそうになりながらも魔法の撃ち手へと反撃の手を伸ばすが、風魔法で竜巻を起こされ再び距離を取られる。
「クソったれめぇ……!」
忌々しそうに相手を睨みつける。
「前魔王の右腕、そして魔術師殺しの天才と言われた男もたいしたことありませんね。
この私、イグニオがそれ以上の天才魔術師だっただけですか」
バーンズの攻撃を悠々と躱した相手は、ニヤリと笑いながら語りかける
「ちっ……」
昔の自分であれば。
速さで攻撃を掻い潜り、或いは強固な肉体で魔法を耐え懐に潜り込み倒す事が出来たかもしれない。
しかし彼は歳を取りすぎた。
老いた肉体、鈍くなった反応速度、
どれも彼の動きを鈍らせる。
「…………フン、その辺は経験でカバーしてやらぁ」
口についた血を拭い、不敵に笑う。
老いた身体など承知の上。
戦闘スタイルをこれまで戦ってきた相手から予測し、
受けてしまう攻撃についてはピンポイントで強化した身体の部分で受ける。
先程の攻撃も分かりやすく避けることでニ撃目の攻撃の軌道を固定させていたのだ。
強化した部分で受けている為勝負が決まるようなダメージにはまだ至っていない。
正に、バーンズの経験がこの戦いを拮抗させているのだ。
そして彼は確信している。
相手の魔力の残存量や、決め手の欠けたこの膠着状態を崩すために、そろそろ大技が来ることを。
その大技の隙が自分の唯一の勝機だと。
戦いを見守る村人も、やってきた兵士たちもその場の緊張感から無言になる。
動いたのは、バーンズからであった。
「うおおおおおおおおおおッッ」
これまで使わなかった全身強化をフルに使い全速力で距離を詰める。
バーンズの全力にイグニオは一瞬焦るが風の魔法で吹き飛ばすような真似はせず大技の詠唱を開始する。
強化されたバーンズを吹き飛ばすのは難しいが、今からの詠唱ならばバーンズが到達する前に大技を放てるからだ。
「くたばり損ないめ!!僕の最強の技で今度こそ引導を渡してやる!!!」
イグニオがの両腕から黒煙の炎が吹き上がりバーンズを襲った――――。




