【悪魔編】グリムと本と、堅物じじいⅡ
「ええと、この字は……なるほどなるほど」
バーンズ爺さんから絵本を貰い3日間、ようやくグリムは文字を読めるようになってきていた。
どうやら絵本には一人の魔族が魔王になるまでの話が書かれているらしい。
魔王となる少年が誕生し強さを求め放浪の旅をする、
その中で数人の仲間と出会い旧魔王を打倒しに行く、という所まで読んだ。
次のページからは仲間たちを紹介するような内容となっているみたいでワクワクする。
「よぉし、続きを読むとしますか。
なになに……魔王の右腕、ふむ……」
グリムが次のページに手をかけたその時、自宅の扉が勢いよく開き――
「おい!大変だぞ!!新しい魔王軍がやって来やがったぞ!!!」
叫んできたのは隣に住む魔族の青年だった。
「??何か始まるんスか?」
「呑気なやつだな!魔王軍が新しくなったって事はここの領主も新しくなるってことだよ!!
これから領主とここに来た魔王軍の幹部が一騎打ちするんだよ!!!」
早く見に行かなきゃ損するぜ!と外に駆け出した青年を尻目にグリムは悪い予感を感じ急いで後を追う。
領主を巡っての一騎打ち。
武器や防具の使用は可能だが回復薬などの道具は勿論禁止。
文字通り正々堂々の一騎打ちだ。
そんな一騎打ちを……爺さんが?
あの人は絵本を渡してなんと言った?
数日間家に来るなと……まさか俺を遠ざけるために?
言いようもない感情ががふつふつと浮き上がってくる。
もし負けたら……
悪魔として生まれ十数年、魔族の世界の残酷さは身に沁みて分かっている。
負けた者に命は……無い。
どうか、どうか死なないでくれと願いながらバーンズの家の前まで走る。
遠目に見える彼の家からはごうごうと赤い炎が立ち昇っていた。
グリムは、ただそこを目指して走った。




