【エルフ編Ⅱ】道化
その頃、拘束を解かれたフィンはただただ全力で走っていた。
息が切れる。
胸が苦しい。
なんでこんなことに……
昨日まではずっと平和だったじゃないか。
……村の皆は無事だと言っていたが、もしかしたら誰か既に殺されてしまっているんじゃないだろうか?
――様々な憶測や感情が入り混じっては駄目だ駄目だと首を振り、
目に涙を浮かべながらも走り続ける。
ネガティブな事ばかり考えちゃ駄目だと。
きっと大丈夫だと。
とにかく無事だったネルちゃんだけでもまずは助けなければ。
そう自分に言い聞かせある場所を目指し一目散に走っていく。
森の深部にある、聖なる泉といわれる場所だ。
村長や長老、戦士長などといった所謂上級職のエルフしか立ち入れない場所の中でも、
神聖な場所だとか、豊富なマナを含む泉が湧く場所だとか言われている。
マナが潤沢ならば、その分大地から得られる恩恵は大きい。
そこを開拓し村の拠点とすればもっと豊かな生活が出来るだろう。
……それをしないのは、きっと何か理由があるからだ。
村長になってから父がたびたびそこへ出かける事を母へ告げていたことも知っている。
きっと禁断の果実があるとしたらそこだろう。
走っている途中に見つけた人避けや感知の結界がフィンの予測を確信に変える。
全てをの結界を魔力のゴリ押しで無理矢理に突っ切り聖なる泉にたどり着いたフィンは、
泉の中央にある鮮やかな樹木に宿る実を前に息を呑む。
「見つけた……」
この世の物とは思えないほどのオーラというか、神気を纏った果実だった。
皮は半透明で中の実が透けて見える。
黄金と例えても遜色の無いほど煌びやかなオレンジ色をしていた。
「これを渡せば……」
そっと実に触れる。
ーーと、その時、風を切るような音とともに何かがフィンに放たれる。
気づいたときにはもう遅かった。
鈍い痛みが、脇腹に突き刺さる。
「うう……」
膝をつき足元を見るとそこには先端に布を巻き付けた非殺傷用の矢が落ちていた。
矢を放ってきた方向に視線を向けると数人のエルフが矢を番え立っている。
フィンは驚きと困惑でパニックに陥る。
なぜエルフの仲間が?
みんな捕まったのではないのか?
どうすればいい?
なんで打ってきた?
しかし無情にもエルフの弓兵達は再びフィンに弓を引き絞りこちらへと向ける。
「第二射、打て」
「くぅっ……!」
最後の力を振り絞り実に触れたが、再び矢を喰らったフィンは抵抗虚しく意識を刈り取られてしまうのだった。




