社会人が辛いのはどこの世界も一緒
「わらしはぜんぜんわるくらいんれすよぉ~!それらのに上司の奴が…うっうっ……」
「わかる、わかるでねーちゃん。」
「ふしまつらってぜんぶわらしのせいにされるしぃ……やっぱりそういうろわふこーへいらとおもうんれすよぉ~~!」
「ああ~その辛さ、わかりますわぁ……」
「苦労されてるんすね…あ、お酒まだありますんでお注ぎしますよ!」
僕らは今、担当官のお姉さんにお酌をしながら愚痴を聞いている。
こうなったのは面接開始から30分ほど経った頃の事だった。
「……総合的に見てお三方共々、希望に沿った転生をされるのはかなり厳しいですね。」
「ええ~ホンマに?」
「ええ、少ない時間ですがこの30分で貴方方にスキルをギフトさせるのは正直ないなと。」
「ない感じですか……」
「ええ、特に全員に言える事ですがそれぞれスキルの第1~第3希望の取得動機が適当というか…不純であったりしますので。」
「そんな~」
俺たちは事実上の不適格宣告を通達されていた。
「ハハァ……まぁ、そういう事なら仕方ないですよね。」
ふいにブンブンがポツリと呟いた。
「……なら、とりあえず転生する前に、飲んじゃいましょうか~」
おもむろにぷちとまが手に持っていた紙袋から酒を取り出し始めた。分かれ際に渡すはずだった二人のお土産と自分用に用意した地元の日本酒である。
「えっちょ、あの…」
担当官のお姉さんが焦り始める。
「まぁまぁ、どうせこれからつまらん村人にでもなるんやしこれぐらい許してやねーちゃん。」
とエノが合わせながらこれまたお土産に買っていたラスクやチョコ、和菓子を開けていく。
「そうですね、もったいないですしね。あと丁度俺のお土産、日本酒に合いますしね!」
ブンブンも用意していたお土産を開封する。
「あの……それらの異世界での娯楽物は貴方方が転生した後に上級神の方々に献上される物で…」
「あぁ~この酒、美味しい~!」
「えっホントですか!俺も貰ってもいいすか!」
「いいとも~~!」
「あの……」
「まぁまぁねーちゃん、ええやんか。というかねーちゃんも飲んだら?美味しいお菓子もあるで。」
「うっ……でも」
「あ~このお菓子美味しいね~~」
「ホントすね!さすがエノさんいいチョイスっす!」
「どうせちょっと食べてもばれへんてねーちゃん、食べとき食べとき、あ、このつまみ美味しいな。」
「ぐぅ……と、とりあえず一つだけ」
「「「どうぞどうぞ」」」
それから今に至る。
お姉さんはよっぽど禁欲的な生活をしてきたのだろうか、食べるもの飲むもの全てにいちいち感動を噛みしめながら一つ一つ咀嚼していた。
そうして上司や立場が上の神とやらの愚痴をぽつりぽつりとこぼし始め、完全に酔いが回る頃には泣き上戸のような状態になっていた。
「ぇぐ……ヒック、わだぢのじょうもない愚痴をきいてぐだざるなんて、やっぱり貴方方は良い方々でず……」
「僕らの世界も生きにくいとこは同じような感じですから~こうゆう時は出せるだけ毒出しちゃうのが一番ですよ」
「せやせや、困った時もしんどい時もお互い様やからなぁ。」
「ですです、あ、お酒お注ぎしますよ」
「うぇええ~!!ありがどうございます!!!やっぱりあなただぢはいいひとですぅ~!!」
お姉さん、完全に泥酔状態である。
「……っぞうだ!!」
バッと気づいたように立ち上がり、三人にふり返る。
「こんなにいい人たちなのでず!わだぢのけんげんで、てんせいもスキルもどうにかじてみぜまず!!」
高らかに宣言する。それに三人は
「いいんすか!」
「流石やねーちゃん!!あんたが一番や!!」
「うお~流石お姉さん!お前がナンバーワンだ~!」
大盛り上がりである。
「フフ……まかしてくだちぃ!いまからしりょうもさいこう!ってはんていにかきなおして!!ついでにぜんいんにギフトのアイテムボックスもつけちゃいやすよぉ!!!」
「よっ太っ腹~!!」
「最高っす!!」
「ねーちゃん有能スギィ!!」
「まーかしといてください!ふへへ!ちょいちょいのちょいなのですよ!!」
後日、担当官であるミーアの日記にはこの日についてこう記されることになる。
――とんでもない失敗をしてしまった、と。
それぞれの転生ライフが、今始まった。




