【エルフ編Ⅱ】踏み外し
ここ一年の間、毎日が苛立たしいですわ。
それもこれもあのダークエルフがやって来てからです、
何度勝負を挑んでも毎回こちらが一歩及ばず勝てない……腸が煮えくり返りそう。
……それにフィンの奴も。
あのネルルースが来るまでは姉の影に隠れてのらりくらりとやり過ごすだけのサボり魔みたいな奴でしたのに!
人一倍食べ物への執着が強いだけの粗暴女だと思ってましたのに!!
――それがなんですか!!!
邪道とはいえ罠猟で兄の弓と張り合える実力を見せ、
勉強だってたいして真面目に受けていなかったはずなのに平然と私と並んでくる。
許せない。腹立たしい。
それにこっちがイライラしてるのを知ってか知らずか、機嫌が悪い時には妙に優しくしてくる所も気に障りますわ!
フィン、そんなに気が回るならもっと私達エルフ側を立てるべきでしょうに……!!
アグラリエルは目先で仲睦まじく勉強している二人を睨みながら心の中で悪態をついていた。
授業が終わりに差し掛かり、皆が帰る時間になる。
黒い感情の矛先である二人は、片付けをしながら楽しそうにこの後の予定を話しだす。
「ん〜!眠かった〜〜!早く帰ってご飯にしよ!!」
「ですね!今日のご飯は何にします?」
「そういや今日の当番は僕だったね、そうだな〜。今日は鴨肉が取れたからちょっと奮発しちゃおうかな〜」
「フィンちゃんの料理、美味しいから大好きです!でもそんなに贅沢じゃなくてもいいんですよ?」
ふん、幸せそうな会話で反吐が出ますわ。
そう思いながら自分もさっさと帰ってしまおうと席を立つが、次のフィンの言葉でアグラリエルは立ち止まる。
「いいんだよ今日は〜。父さん達、村の備蓄品を買いに出てって明後日の夕方までは帰って来ないし。
鬼のいぬ間に〜って奴だよ〜」
両親が居ない。つまり今あの家には二人だけ、ということ。
アグラリエルの脳裏に、普段は考えつきようも無い計画がよぎる。
もし思いついても、普段の彼女なら馬鹿げた考えだと一蹴した事だろう。
しかし、この一年で降り積もったストレスがついに彼女の判断を狂わせてしまう。
超えてはならない一線を、超えてしまった瞬間であった。
口角を釣り上げ歩き出した彼女は、計画を遂行する為、同じように日陰者になった仲間達に声を掛け始めた。




