【人間編】旅立ちと約束
「……もう行くのか」
「この家も寂しくなるね……」
玄関先で父親と兄が声をかける。
「まぁ、良いタイミングだと思うし実際ずっと家に居る訳にもいかんでしょ」
しんみりとした空気を振り払うさっぱりとした返事をヴェルミーリョが返す。
妹であるイレーネが起こしたあの日の事件から二ヶ月と少しが経った。
事件のすぐ後、ヴェルミーリョは転生者やスキル持ちである事を上手く誤魔化しつつ、ことの顛末を父と兄に伝えた。
二人共妹の醜悪な内面に驚きを隠せず、特に父親のショックは計り知れないものであったが兄のサポートもあってなんとか立ち直りも早く済んだ。
事件の中心となった妹は家の体裁も考え、牢獄には入れられず内々に更生施設、もとい修道院に入院させる運びとなった。
数年そこで生活させ反省の色が無ければ、一生をそこで終える終生修道女として突き放す方針だそうだ。
恐ろしいけど、仕方ないね。
「何かの役に立つかは分からんが、これを持っていけ」
おもむろに父親が進み出て、こちらに何かを寄越す。
「……剣?」
「ああ、家に伝わる古い宝剣だ。まぁ、見ての通りうちは豪族という程ではないから、
たいして良いものではないかもしれんし、なんなら売ってしまっても良い。
お前のなにかの足しになってくれればそれで良い。」
「……ありがとう、父上」
何だかんだ厳しくても優しい父に感極まってしまう。
「……道中気を付けてな」
「ああ。兄さんも、家の事頑張ってな」
「うん、ヴェルも元気で」
「おう、それじゃあ」
薬屋で稼いだ金に、最低限の生活用具、それに宝剣を持ちヴェルミーリョは旅立つ。
「ひとまず、約束もあるし大都市アラーラを目指すかー」
そう呟き、歩き出す。
彼の冒険はまだまだ始まったばかりだ。




