【人間編】決着
……体が痺れる、上手く動けない。
兄貴にやったようにしびれ薬撒いて動きを封じてきたか。
受け身も取れずに床に倒れ込むヴェルミーリョは冷静に事態を受け止めていた。
――この程度なら何とかできる、と。
十分な距離を取り様子を伺うイレーネに視界を向け機会を伺う。
「……流石のあんたも動けなければ、あの瞬間移動や超スピードのような能力は使えないようね」
動けない俺にイレーネは勝ち誇ったような笑みを浮かべ近づく。
やはりだ、奴は俺の能力を勘違いしている。
まぁ、自分でもこの能力を使う相手と対峙したらきっとそう結論付けるだろうが。
――「過程をすっ飛ばし結果を手に入れる能力」。
能力を使い結果を手に入れるたび、結果を得るための労力が身体にフィードバックする。
そして、生き物に使うことはできない。
――ただし、自分以外は。
スキルを使う。
得る結果は「痺れ薬が自然治癒した後の自分」。
恐らくこの痺れが完全に治るであろう十数時間後の自分に一気に飛ぶ。
結果に伴う労力のフィードバックで空腹感や倦怠感がドッと押し寄せて来る。
でも、動けなくなる程じゃない。
「あんたのムカつく顔を見るのも今日で終わりよ!!」
イレーネがナイフを振りかざす。
「――それはこっちのセリフじゃい!!オラッくらえ!!!」
「ッ!!?」
残った力を振り絞り相手の懐に潜り込み――
「男女平等パンチ!!!!!!」
「うげぇッッ?!!?!!」
渾身の一撃、もとい全力の腹パンが鳩尾を深くえぐり、イレーネは意識を刈り取られた。
……部屋に残ったのはヴェルミーリョと、兄であるアルシャンドル。
ふと目が合う。
何がなんだかわからない!説明してくれ!
というかこの拘束を解いてくれ!
と言わんばかりの視線をアルシャンドルは送るが、
ヴェルミーリョは何を勘違いしたのか、腰に手を当て腕を振り上げドヤ顔でこちらに向き直る。
「はい、俺の勝ち〜www」
拳を突き上げ、なんとも言えない勝鬨を挙げる。
そうじゃない、そうじゃないだろ弟よ……
アルシャンドルは目の前の弟に途方もない残念さを感じながら深くうなだれた。
ともあれ、ひとまずは戦いに勝利したのだった。




