【人間編】人質ムーブ
「だいたい皆逃げてくれたっぽいなぁ」
大声で屋敷の人間に避難を呼びかけ続けたヴェルミーリョは、調理場で
手に入れたナイフで拘束を解き、屋敷内を捜索している最中だ。
「こっからどう動いてくるか……」
これまでの妹の言動を振り返り、状況を整理する。
【取り込んだ毒を生成する能力】、
それにこのガスマスク。
恐らくだが、
まず第一に奴自体に毒の耐性は無い。
あるならそもそもガスマスクなんてもの付けなくてもいいはずだ。
耐性が無いように見せるブラフではないだろう、
疑われないよう秘密裏に計画を練っていた者が、あんな疑われやすい物を持っておく理由がないから。
第二に、作れる毒にすぐ死ぬような強力なものは無い。
毒耐性が無いという仮定は正しい、
死ににくいウズメドリの毒を使おうとしていた事もそれを裏付けている。
つまり、能力の為に取り込む毒は、自分が死なない程度の物のはず。
よってあいつが作れる毒も大したことはない。
そして第三に、これからどんな行動をとってくるか。
自分ならどうするだろうか、
……逃げるか?いや、今逃げれば後々手配書が回され犯罪者として捕まるかもしれない。
ならば必死の抵抗だ。
この状況を知るものを殺す、ないしは罪を擦り付けて身の潔白を主張する。
後者は特にありえるかもしれない。
十何年も家を潰す計画を隠し通してきた切れ者だ。
素知らぬ顔で親父に近づき俺を犯人に仕立て上げる、ないしは俺を殺して適当な事実をでっちあげるかもしれない。
厄介だ。勝てるだろうか?
……自分の能力で出来ることを考える。
「過程をすっ飛ばして結果を手に入れる」能力。
「移動」の過程をすっ飛ばし「目的地につく」結果を得たり、
「労働」の過程をすっ飛ばし「成果」という結果を得ることが出来る。
ただし、自分以外の生きている物には効果を及ぼせない。
つまり、
他者に「攻撃する」という過程をすっ飛ばし「倒した」、「ダメージを与えた」という結果を得ることや、
「話す」という過程をすっ飛ばし「相手の人となりを知る」事や「知識を共有する」という結果を得ることは出来ない。
それに恐らくもう一つデメリットがある、試す気はないけど。
この能力、あと一歩足りないんだよなぁ。
ともあれ、余程痛い所を突かれなければ今の所は有利に戦えると思う。
能力を封じるためマスクも奪ったし。
人質になりそうな屋敷の人間も逃した。
そっと外を伺う。
ほぼほぼ全員屋敷の外で固まり、様子を伺っている。
親父らしき人影がオロオロとしているがまぁそのうち落ち着きを取り戻し彼らを先導してくれるはず……………ん??
そこで気づいた。
兄であるアルシャンドルが居ないのだ。
兄は俺や妹とは違いほぼ欠点が無い。
あるとすれば最高に寝起きが悪く、起こしに行っても全然起きてくれない事だ。
……最悪だ。
てっきり隣の部屋の父が連れ出してくれているものと思っていたのに……
ああ、父も父で唐突な状況での対応力が無い人なのだ、
要するに大事な所でめっちゃテンパる人なのだ。
さ、最悪だァーッ!!!
嗚呼……こんなんだからそれなりレベルの貴族なんだようちは……
ヴェルミーリョは頭を抱えた。
「ホンマしまり悪すぎやで……」
ヴェルミーリョは兄の寝室へ走った。
そして、そこには既に先客が待ち構えているのだった。




