【人間編】反撃開始
「ッ!?どこに――ッ!」
能力を使い移動という過程をすっ飛ばして一瞬で死角になる位置へぶっ飛び、
「後ろや!オラ喰らえ!男女平等頭突き!!」
「――この、ぶッ??!」
振り向きざまに合わせて思い切り頭突きを食らわせる。
顔面にもろ頭突きを貰ったイレーネは鼻血を垂らしながらよろける。
椅子に縛り付けられているとはいえ足元まで縛らなかったのは爪が甘かったなァ!
相手が怯んでいる隙に、ヴェルミーリョはイレーネが取りこぼしたナイフに目もくれずある物へ手を伸ばし――――届いた。
イレーネの被っていたペストマスクだ。
それを引っ掴んだヴェルミーリョは再び能力を使い部屋のドアへと瞬間移動する。
牽制はクリア、なら次は縛られている現状をどうにかせねば。
その為に――
「一旦逃げる!!」
「ま、待ちなさい!!」
鼻を押さえてよろけるイレーネを尻目に、ドアを突き破り瞬間移動を駆使し脱兎の如く逃走した。
椅子に縛られた人間がこまめに瞬間移動するというシュールな移動方法で距離を取りながら、
冷静になってきた頭でこれからどうするべきかと思考する。
――反撃の手段。
方法で言えば、二択ある。
その①、街の自警団、衛兵へ事を伝え対処してもらう。
その②、自分がイレーネと戦う。
……どちらにもメリット、デメリットがある。
①の方法は安全だ。しかしこの方法をとった場合、仮にも領地を持つ小貴族としての面子が潰れる。
自分の領地を守れないから助けてください!と、責任能力の無さを露呈しているのと一緒だから。
仮にも領主なら私兵の軍団が一つや二つあるんじゃないのって?
無いんだなぁーこれが!
あったら苦労してないんじゃい!
つまり安全に処理してくれるかもしれないが……最悪、国から領地も地位も没収され家族は平民落ち、路頭に迷うことになるかもしれない。
自分は構わないがあの父親はワンチャン自殺までありえる。
ワンチャンどころか数チャンある。
では②はどうか?
これは…………
………………………単純に嫌だ……。
だって死ぬかもしれないやん?
相手はこっち殺すつもりなんやし……
戦ったとしてミスったら死ぬなんてキツイにも程があるでしょ……
でも①のデメリットは完全に打ち消せるんだよなぁー…………
あーーもう!!金さえあれば冒険者でも雇って突貫させるのになぁーーーーッ!!!
…………結局、答えなんて決まっているのだ、やるしかないのだ。
これでよくないけどこれでいいと言うしかないのだ。
これでいいのだ!!!
半ばヤケクソ気味に瞬間移動を繰り返しながら叫ぶ。
「賊だぁああ!泥棒だぁーッ!!強盗だァァ!!皆逃げろォおおおおおおおおおお!!!」
屋敷の皆を逃してあの女と戦う。
やってやる、やってやるさ!!!
そしてあの女に現実仕込みの男女平等パンチをお見舞いしてやるのだ。




