【人間編】ヴェルミーリョのハッピー人生設計Ⅴ
……妹はなぜ毒薬の取引をしていたのか。
誰に使う?
そもそも目的は?
身内に犯罪者予備軍、もといこれから犯罪を起こすであろう人物が居ると思うと、ヴェルミーリョは気が気ではなかった。
とにかく、あの場に自分が居たのだけは悟られないようにしなければ。
昨日今日と門限を破り帰宅した為、
怒り心頭な親父には食事時までこってり絞られた。
何とか平常心でやり過ごし自室に戻ってきたヴェルミーリョは、
はぁ、とため息を一つ漏らしベッドに座り込む。
それにしても――
「ウズメドリの毒、なぁ」
自室に戻ったヴェルミーリョは一人ごちる。
ウズメドリはこの辺りの森に生息する毒を持つ鳥型のモンスターだ。
小柄で他の鳥とも別段見た目が変わらず、
自分から攻撃するのは繁殖期ぐらいなのでモンスターというよりちょっとした害獣という認識なのが質が悪い。
……実はこの辺りでごく稀に起こる突然死の原因はこいつだったりするのだ。
稀に、と言うのはほとんどの場合致死量の毒を受ける事が無い為。
何度も攻撃されなければ、せいぜいが頭痛に腹痛、吐き気に苦しむぐらいで済むだろう。それも嫌だが。
死ぬ奴がいるとすればよっぽど鳥が嫌いな奴か、運の悪い奴だ。
ここで、一つの疑問が浮上する。
……果たしてそんな毒を毒殺用に使うだろうか?
――自分なら使わない。
じゃあなぜわざわざあれを使うのか?
報復か何かか?誰に?
もしかして誰かにイジメられている?
ぐるぐると、想像の域を出ない思考を繰り広げては、
その度に何の材料も無けりゃ判断はつけられないだろ、と頭を抱える。
そうして何度目かのループを繰り返したのち、ふとある事を思い出す。
……本だ。
いつもイレーネが大事に脇に抱えている、背表紙に何も書かれていない分厚い本。
ただの本なら常に持ち歩いたりはしないだろう。
あれは日記か何かでは無いのだろうか?
そうでは無いにしろ、本人にとって肌見放さず持ち歩く程の「何か」が書かれているものだ。
調べる価値はある。
時刻は夜の10時半ごろ、イレーネは寝ているはずだ。
……俺ならバレない。
そう考えたのと身体が動いたのは同時だった。
数部屋先の妹の部屋のドアを静かに開け、寝ている妹と、化粧台に置かれてている本を確認する。
素早く中に入り本へと手を伸ばす。
なんだかこの部屋、妙に甘い匂いがするな。
頭の隅でふと感じたが今は気にしている暇はない。
本を開き、中を覗くと――
「なん……うそやろ…………まさかコイツ――」
本の中身に驚愕しイレーネの寝るベット振り向いた瞬間――凍りついた。
ペストマスクのような物を被った妹がこちらを見て立っていた。
「見つけちゃったね、兄さん」
マスクに、部屋の甘ったるい匂い。
くそ、そうゆうことか。
「ぐ……眠り…香、……か…………」
全てを理解した瞬間、俺の意識は暗闇に落ちていくのだった。




