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【人間編】ヴェルミーリョのハッピー人生設計Ⅳ


「そいじゃまた来るで、婆ちゃん」


「さっさと帰りな!最近はすぐ暗くなるから気をつけるんだよ!!」



時刻は夕暮れ。日帰りのクエストを終わらせた冒険者や店閉まいをした商人が帰路に着く頃合いだ。


例に漏れずヴェルミーリョも、ひらひらと手を振りながら婆さんの店を出る。



流石に今日は門限を過ぎる前に帰らな、

そう考えながら近道を通るため、普段は行かない路地裏に出る。


ふと、見慣れた姿の女性を見つけた。

分厚い本を脇に持ち、裏路地という場所に似つかわしくない貴族めいた服装、あれは――




――あれってまさか、うちの妹では?




イレーネ・ニエロ・プラーヴァ。

父親に似たせいで目つきが悪く、お世辞にも美人とは言えない、

そのせいか若干のコミュ障気質な部分のある扱いづらい少女。


出来れば関わりたくない。それが妹、イレーネ・ニエロ・プラーヴァに対する印象である。



そんな妹が何やら挙動不審に辺りをを見回し、狭い区画に入って行く。


危なくないか?という親切心と、何やってんねやろ、と言う好奇心とで後を追っていくヴェルミーリョ。



2つほど路地を曲がった先だろうか、妹と誰かとの会話が聞こえてくる。


「……お金はこれで全部、です」


「へへっまた機会があったらよろしくお願いしますわァ」


「はい……」



……恐喝か何かか?


関わり合いになりたくないとはいえ、イレーネは自分の妹、困ってるなら助けてやらんと。

ヴェルミーリョは顔をしかめ、相手の顔を確認しようと身を乗り出す。



しかし想像とは全く違う状況が、そこに広がっていた。



浮浪者のような男が、イレーネに何かを渡しているのだ。



藤色の液体の下に、ほんのりと赤黒い泥が沈殿している小瓶だ。



……見た事がある。

確か婆さんの調合部屋、解毒薬をテストするための毒薬サンプルの棚だ。

名前は――



「……ウズメドリの毒薬、か?」


あ。


「ッ!そこにいるのは誰ッ?!」


「やっべ!」


やらかした。思い出すことに気を取られて思わず口に出てしまっていた。


すぐに顔を引っ込めたので正体はバレていないが、まずい。非常にまずい。


まず、あんな声を荒げる妹を見るのは初めてだ。

異常である。事件の匂いがプンプンする。

厄ネタの香りしかしない。絶対ヤバい奴!




……というか、そもそもの話である。

仮にも貴族の女が毒を買っているのだ。


謀略か謀殺か、下手したらその両方だ!


そんなの相手に、


くぅ〜バレちゃったかー!

そうだよ!俺だよ!物陰に隠れていたのは、お兄ちゃんでした〜!!


……なんて、言えるわけがない。



下手すりゃ死ぬか、それか死ぬかである。



「こんなん言われなくてもスタコラサッサやろがい!」



イレーネがヴェルミーリョの居た物陰に手を掛けたのと、ヴェルミーリョが能力を使ったのはほぼ同時だった。



「待ちなさい!ッこの!…………え?」



確かにあった目と鼻の先で感じていた人の気配が一瞬で霧散し、誰も居なくなった路地を呆然と見つめるイレーネ。


「……裏から回ってきやしたが、誰ともすれ違いやせんでした……」


浮浪者の男も裏手から回って来たが、誰も見つけられなかったようだ。


「くッ!……なんとかしなきゃ……なんとかしなきゃ……クソ!!」


爪を噛み、沸湯を飲まされたような面持ちでイレーネは声を絞り出す。



屋根の上に瞬間移動したヴェルミーリョは、

彼女の凄まじい焦燥と怒気を肌に感じながら、ひたすら気配を殺すことしか出来なかった。

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