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【人間編】ヴェルミーリョのハッピー人生設計Ⅱ


人間に転生した「エノ」こと、ヴェルミーリョ・ニエロ・プラーヴァ。


現在彼は、混合都市ベルベットの商業区画を歩いている最中である。


――「混合都市ベルベット」


経済を民間と公共で補い合う手法を最初に始めたと言われる為にそう呼ばれるこの地は、

資本主義の体制に似ており商売事の自由競争が許されている場所でもある。


王都ルグリアから七里ほど離れた、近いとも遠いとも言えない街で、

人口もそれなり、欲しい物もそれなりに手に入る、それなりな都市だ。


ついでにいうとエノこと、ヴェルミーリョの産まれたプラーヴァ家も小規模とはいえ領地を持ち、資産も多くも少なくもない、良くて小貴族、悪くて没落貴族といった感じの

「それなり」貴族である。



……貴族と言っても、実はそれなり貴族というのは結構資産がカツカツだったりする。


端的に言えば、家督を継いだ者以外の面倒なんて見る余裕が無いのだ。


このまま普通に生きていても、次男であるヴェルミーリョは良くてそれなり貴族との見合い結婚、悪ければいずれは身一つで家を追い出されるだろう。


……三女のイレーネはそんなに見た目が良くないにしろ、結婚して嫁ぐぐらいの面倒は見てもらえるだろう。家柄を保つ打算的な意味も含めて。



まぁ、要するにたとえ異世界でも一生ニートなんてものはそうそう許されないのだ。悲しい。



「くぅ〜働きたくねぇ〜w」



目的の場所についたヴェルミーリョは目の前のドアノブに手をかけ、大雑把に扉を開く。



「ばあちゃん、おるー?w」


「居るも何も此処はアタシん家だよ!さっさとこっち来て手伝いな!」



薄暗い部屋の奥から機嫌の悪そうな声が帰ってくる。

へいへい、と返事をしながら階段を上がって2階へ登ると、意地悪そうな魔女っぽい見た目の婆さんがかき混ぜ棒で壺の中の液体を混ぜていた。



「ばあちゃんなにしとん……ねるねるね○ねでも作ってるん?」


「どっからどう見てもポーションだろうが!ったくなんだいねるね○ねるねって、いいから早く替わんな!」


「へいへい」


婆さんの持っていたかき混ぜ棒を受け取り、液体をかき混ぜ始める。

中身はやはり、というかもちろんポーションだ。決してねるね〇ねるねではない。



つまりそう……此処は薬屋だ。婆さんは調合師、決して魔女ではない。



親には秘密にしているが、ここで密かにバイトしに来ているのだ。


金のためではない。

実はすでに、ヴェルミーリョは自分の身の振り方を決めている。



剣士や魔法使いになって有名な冒険者になるのか?


――NOだ。

治らない程の怪我をしたら続けられないし、そもそも死ぬほど危険な仕事なんて御免だ。魔法の才能も残念ながら持って無い。



では元の世界で培った経済学や経営戦略の知識で成功を収め、デカイ家や領地を手に入れリッチな生活を手に入れるか?


――これもNOだ。

今のうちに家の力を最大限利用すれば大金を稼いで独立する事も出来るかもしれない。

だが、そうすれば家柄や他の貴族との息苦しい関係を回避することは出来ないだろう。


それに権力のある貴族に目をつけられれば、有無を言わさず稼いだ金を毟り取られるかもしれない。

そんなの嫌だ。




じゃあどうする?どうするべきだ?




――家を出た後、薬師や調合師といった職業でそれなりに金を稼ぎ、自由気ままに生きる。


それが彼の「ハッピーになる為の人生設計」であった。

婆さんには仕事の合間に薬の調合の仕方や薬草の事を教えてもらっている。



「それじゃあ私ゃ疲れたからちょっと横になってくるよ。合間にもし卸売業者が薬を取りに来たら地下室にあるのを持っていくように言っておきな、じゃあ後2時間キッチリ混ぜとくんだよ!」


矢継ぎ早に指示だけ告げ、魔女風婆さんは階段を降りていった。


「へいへーい、おやすみやで」


ヴェルミーリョは生返事を返し、鍋の中身へと視線を落とす。


「めんどいなぁ」


ぐるぐるとかき混ぜ棒を回しながら独り言を漏らす。


「2時間て長すぎやでホンマ……」


ぐるぐるぐるぐる


「アカンわ。めんどくさすぎる。スキル使うか〜w」


かき混ぜ始めてものの2分で飽きたヴェルミーリョは、己のスキルを発動させた。

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