【人間編】ヴェルミーリョのハッピー人生設計Ⅰ
「ヴェルミーリョ!ヴェルミーリョは何処だ!!」
白髪の生え始めた黒髪に歳の割には老けた面構え、目つきの鋭い男性が庭で叫ぶ。
「あの、ご主人様……ヴェル坊っちゃんでしたら先程外出なされました」
すぐそばで庭の手入れをしていた侍女が男性の疑問に答える。
「あの馬鹿息子!!昨日も門限を過ぎたから今朝薪割りの罰を与えたというのに!
それもやらずに出ていったというのか!!」
「それが……」
侍女が理由を説明しようとしているが言っていいものか、いいつぐんでしまう。
この館の主人は怒りっぽいのだ。
とばっちりはごめんなのだ。
「あ、居た居た、父さん!」
玄関からやって来る助け舟に侍女は安堵の息を漏らす。
「アルシャンドル!今すぐヴェルの馬鹿を捕まえてこい!明日の分の薪も全部割らせてやる!!」
怒り心頭の父に、アルシャンドルと呼ばれた金髪の美丈夫は肩をすくめてこう言った。
「違うよ父さん、ヴェルはやる事はちゃんと済ませてるよ。
薪割りは終わってた、この目で確認したよ」
「お前が手伝ったんじゃあないのか?弟だからといって甘やかしているんじゃないのか?!」
「誤解だよ、父さん。
神に誓って僕は、ヴェルの手伝いはしてないよ」
「じゃあなぜこんなに早く薪割りが終わっているのだ!不自然だろう!
!」
「それこそ最大の誤解だよ父さん。
……あいつは不自然の塊みたいな奴じゃない」
「ぐぐ……!」
「2ヶ月前にあいつを交易に連れてった時も、勉強してみろって渡した商品をいらなそうな物に変えてたでしょ?
でも数日前、元の4倍の値段で全部捌けてったじゃない。あいつはやっぱりなんか持ってる奴だよ」
息子であるアルシャンドルが最早慣れたと言わんばかりに弟、ヴェルミーリョの規格外さを語る。
「ぐぐぐ……」
分かりたくないと思いつつ、理解してしまう父親が唸る。
そうしてやがて絞り出すように言葉を漏らした。
「……分かっている。よく分からんがあいつには商才がある。
でも、だからこそ仕事の基礎や一般教養という地盤をしっかり固めてもらいたいたのだ……このプラーヴァ家と、あいつ自身のためにも……」
「父さん……」
息子が父の背中を慰めるように手を置く。
「だというのに!才能はあるのに努力が足りておらん!!
……はぁ、そういえばイレーネはどうした?あいつも外出か?何か聞いているか?」
「ああ、イレーネは家の勉強以外に覚えたい事があるって言ってた。多分貸本屋に行ったんだと思うよ」
「全く……あの子も社交性が足りんというか……いや、努力しているだけマシか。妹が頑張っているのにヴェルの奴には兄の威厳というものが無いのか……」
がっくりと肩を落とす父親。
すかさず背中を擦る長兄、アルシャンドル。
「ヴェルはもうちょっと努力して、イレーネももう少し社交性があったら良かったんだけどね……」
「本当にな……お前だけが頼りだぞ、アルシャンドルよ……」
「ははは……」
厄介な子供を持つ父親、
そして厄介な兄弟を持つ息子は二人揃って肩を落とし合うのであった。




