【エルフ転生編】エルフのフィンと森で狩りⅣ
「っ…ウィンドホール!!」
片膝をついて土魔法を使っていたネルでは回避が間に合わないと踏み、咄嗟に先程使ったウィンドホールを構築し彼女に放る。
小規模の突風で突進の進路上からネルを吹き飛ばし、自身は風の反動とバックステップで回避を図る。
攻撃を避けられたドレッドボアはそのまま進路を突っ切り土煙を立てながら、再びこちらへと向き直ろうとしている。
「フィンちゃん!」
吹き飛ばされながらも身体強化系の魔法を使っていたのか、早い段階でネルが復帰しこちらへと合流する。
「……あいつら多分、つがいだったんだろうね」
「ええ、でも――」
ほんの少しだけ悲しい顔をしたネルだが、すぐに表情を引き締める。
分かっている。
誰もが生きるために他の命を奪っている。
そうして他の命を貰って、初めて命を繋ぐことができる。
もとの世界じゃ、それが見えにくかっただけ。
……命の奪い合いは厳しく常に危険が伴う。余裕なんてものは無い。
――けれど、奪った命には敬意を払うべきだ。粗末にしていいはずがない。
命の重さ、自分たちの生存。それらを天秤に掛けたフィンは慎重に、真剣に口を開く。
「――2分以内。それまでに倒せなければ逃げる、いい?」
「妥当な時間だと思います……それでも、必ず勝ちましょう!」
再びドレッドボアの突撃が来る。
纏う炎が更に増し、攻撃力も段違いだ。
が、今度はこちらも万全の状態、先ほどよりは余裕を持ってニ撃目を避ける。
再度奴との距離が開く。
「確殺できる魔法を使う!時間を稼いで!!」
雑に展開した技とも言えない水魔法で直線を描くように地面を水浸しにしながら叫ぶ。
それを見たネルがヘイトを買うためドレッドボアの正面へと踊りだす。
道中色んなプランを話し合ったお陰でこちらの意図を理解してくれたようだ。
「任せてください!怒りの礫よ!我が怨敵を打ち払い給え!ストーンバレット!!」
拳ほどの大きさの石の礫がネルの手から高速で打ち出され、ドレッドボアに直撃する。
たいしたダメージでは無いが、しっかりと怒りの矛先がネルに向き威嚇するように前足で地を踏み鳴らす。
それを確認したフィンは自分の役目を果たすため詠唱に集中する
「大いなる風の精霊よ!その眷属達よ!我は汝らに愛されし者――」
一方でネルは解体用のナイフを抜き、中断に構えつつ相手の攻撃に備える。
「……来なさい!」
ドレッドボアの全力の突撃が繰り出される。
とんでもない速さと重さを兼ね揃えた一撃が肉薄する。
しかしネルはそれを見切り、左手でドレッドボアの頭に振れ突進の力を受け流し上空に避ける。
その一瞬の合間に右手ではナイフを滑らせるようにつき立てている。
「ブォォオオ!!!」
傷は浅いが的確な部分を攻めた斬撃により、鮮血が飛び散る。
ほんの一瞬でこんな芸当が出来るのはダークエルフの肉体強化魔法、それに炎魔法に対する属性耐性があるからこそ。
体制をぐらつかせつつも、再びネルへ向き直ろうとしているドレッドボアが居る地点は、ネルが狙った通り――
――フィンが水魔法で描いた直線の先だ。
直線の両端にフィンとドレッドボアが、その中間にネルが位置取っているという構図だ。
ドレッドボアがこちらに向き直る数瞬の合間にそれを把握したネルは呪文を詠唱しながらフィンの元に駆けていく。
「地に住まう者どもよ!我が声を聞け!汝の敵の声を聞け!汝らを傲慢に踏み荒らす者共を咎め給え―—!」
詠唱が終わるのとドレッドボアの突進が放たれるのはほぼ同時だった。
「マーダーオブサンド!!」
マーダーオブサンド。地面を砂と化し対象に襲わせることで足止めや目くらましをする為の魔法だ。
ドレッドボアの突進力を考えれば、簡単に突破されてしまうため対処法としては弱い。
しかしフィンが地面を水浸しにしていた事で新たな変化をもたらす。
砂はフィンの水魔法と混ざり合い、
沼と化していた。
足を取られたドレッドボアの突進はみるみるその勢いを落とし始め、
それを見計らったかのように今度は沼が意思を持ちドレッドボアに襲いかかる。
じゅう、と水分を含んだ砂がドレッドボアにまとわり付き、炎を無力化していく。
それでも目の前の敵を倒さんとこちらへと少しずつ藻掻きながら近づくドレッドボア。
舞台は整った。
「――死と暴虐の限りを尽くす暴風よ!集え!集え!!全てを穿つ力となりて我等が宿敵を貫き給え!」
詠唱を終え、右手を相手へとかざす。
「タイラントストーム!!!」
荒ぶる暴風が槍のようにに収束され、目にも止まらぬ速さで撃ち出された。
打ち出された魔法はドレッドボアの頭から背中を貫通し、後ろに立っている木々までもやすやすと貫き、やがて霧散した。
悲鳴を上げる事も、苦痛を感じることも無かったろう。
「……」
死体に近づいたフィンが手を合わせ狩った者への感謝を祈る。
ネルも後に続く。
……しばしの沈黙の後、ネルがフィンに語り掛けた。
「なんとか倒せましたね……」
「本当ね~、上手くいったから良かったけど正直やばかったと思うよ。ていうか正面きって見るドレッドボア、めっちゃ怖かった」
普段の脱力した言葉遣いに戻ったフィンに、ネルはふふ、と笑みを零す。
「それにしても凄まじい魔法でしたね」
「うん、ありがと。とっておきなんだ、あれ。はぁ~とにかく倒せてよかったよ〜」
微笑むネルにフィンも笑いかける。
ひとまず、二人のはじめての狩りは成功に終わったのだった。




