【エルフ転生編】エルフのフィンと森で狩りⅢ
「そろそろかな?」
大物の通りそうな道筋を見つけ、その先の開けた場所に罠を仕掛けた。
二人は木の上で獲物がかかるのを待ってる最中だ。
「フィンちゃん、あれ」
ネルが指を指した方向を見る。
歩いてきた獣は、鼻が大きく下顎と目と鼻の間から生えた角が特徴的だ。
あの角の生え方、地球では猪の仲間でバビルサと言ったか、それにかなり似ているが生えている角はその比ではない。
デカいのだ、それに弧を描くように生えているのではなく、突進した相手をそのまま突き殺せるような生え方をしている。
あれは――
「ドレッドボアだね……かなり大きい」
「想像以上の大物が連れましたね……二人じゃ危険な狩りになるかもしれません。どうします?」
ドレッドボアはこの森に出る危険な魔物の中でも上位に入る存在で、力が強い上に気性も荒い。
おまけに身体に炎を纏う火属性魔法を使う厄介な相手だ。
炎を纏う広範囲の突進を避け続けるのは至難の業、
かといって纏った炎を無力化する為に魔法を使えば突進攻撃に対して後手に回り、速度のついた突進を避けるのがさらに難しくなる。
こいつを倒す場合、気付かれる前に一撃で仕留めるか、
もしくはヘイトを引く者、炎を無効化させる者、体力を削ぐ者など、役割を分担して数人で仕留めるのが定石と言われている
もしも一人でなんの準備もなく会敵してしまった場合、絶対手を出さずすぐ逃げるように大人から強く言い聞かされている。
「仕込みは済んでるんだし、予想通りに事が運ぶなら続行でどう?
」
ふむ、とネルは考えた。
しかし考えたのはほんの数瞬、仕込んだモノの周到さは二人で協力したので分かっている。
「ですね、予定の通りならこのまま行きましょう」
ネルの返答によし、とフィンは頷き視線を戻す。
ドレッドボアはフィンの用意した餌をしばらく一定の距離から様子見していたが、
辺りに他の魔物の気配が無いことを確認したのか、警戒を解き餌に近づいた。
よし、そのままだ。そのまま――
「ブモォッ?!」
餌の目の前まで近付いた瞬間、ドレッドボアが視界から居なくなった。
餌をぐるりと囲むように掘られた、底の深い落とし穴に落ちたのだ。
「よし!かかった!!急ごう!」
「はい!」
「ウィンドホール!」
手早く構築していた魔法をフィンが放つ。
唱えられたウィンドホールという呪文によって小規模の突風が起こり、風が血の匂いを別の方向へ洗い流した。
ドレッドボアを始末する間に他の魔物を寄せ付けないようにする為だ。
「道中に聞いてはいましたが詠唱省略まで出来るんですね……」
「使い慣れてる奴だけね!っと、周り見てて!」
「任せてください!」
周囲の注意をネルに任せ、ドレッドボアの状態を確認する。
掘り進むにつれて狭くなっていく落とし穴に体の自由を奪われ、自分に何が起きたか分からず興奮状態といった感じだ。炎はまだ纏っていない。
ラッキーだ、と魔法を放った右手に再び集中し、マナを込める。次に使う魔法で仕留める。
「バインドフロード!!」
ドレッドボアより一回り大きい水が発生しそのままどぷん、と包み込む。
現状を把握できていない状態からさらに新たな窮地へと叩き込まれたドレッドボアは数秒間じたばたともがいた。
そして自分が攻撃を受けているということにようやく気付き、慌てて炎の魔法を発動しはじめる。
「残念、使うのが遅かったね」
炎で水を蒸発させようと躍起になっているが
所詮は魔物の発動する魔法、効率のよいコントロールが出来ていない。
一方フィンは絶対に突破されてはならない部位に力を集中した。
呼吸をするための、口と鼻の周辺だ。
がぼがぼと、ドレッドボアの口から空気が出ていく。水から逃れるために必死に首を振り、炎を強くしようと最後の力を振り絞る。正念場だ。
こちらも極限の集中力で魔法を維持し続ける。
そこから30秒ほど経った頃だろうか、ついにドレッドボアの身体から炎が消え、ばたりと力無く倒れた。
それから1分。油断をせず魔法を維持し奴が目覚めないかを確認し、その後魔法を解除した。
「……始末した。交代して」
「わかりました、一応私も確認してから土魔法で落とし穴の土をせり上げます。手早く血抜きを済ませた後、獲物を別の地点まで持っていって解体、ないしはそのまま持ち帰る、で大丈夫ですよね?」
「それで構わないよ、それじゃあ次は僕が見張るね」
はい、と返事をし作業に入るネルを尻目に辺り一面を見渡す。
今のところ獣の鳴き声や移動する音は無く、特に何かが居るようには見えない。
しかしいつ何時でも異常事態は起こるもの、
ドレッドボアの死亡を確認したネルが落とし穴の土を下からせり上げ、死体が地上に見えた時、
――がさり
フィンから20メートル前方の茂みから魔物が這い出てきた。
……まさか、2匹目だと?
死体とこちらを睨みつけ、そして
「まずい!ネルちゃん!!」
「ブモォォオオオオォォォオ!!」
怒りを孕んだ鳴き声を上げながらこちらへ突進してきた。




