【エルフ転生編】エルフのフィンとチェンジリングⅣ
アグラリエルの言葉を受け、一同は学び舎から弓の練習場へ来ていた。
自分たちが居る場所の目先に弓や矢をしまう小さな物置小屋、
そして20メートルほど先には等間隔に簡易的な弓の的が立てられている。
「それではこれから!ダークエルフであるネルルースさんに改めて自己紹介を!して頂こうと思いますわ――」
アグラリエルは邪悪な笑顔を隠さず―—
「――エルフ式の方法でね!!!」
――鼻息荒く言い切った。
う~ん、嫌な奴だな~~こいつ~~~!
思わず顔に出てしまう。
「ネルちゃんさ……別にこんなんに付き合わなくても大丈夫だよ、嫌なら僕が話付けとくしさ」
「いえ、大丈夫です!こうゆうのはきっと、これからもあるでしょうから……だから」
こんなところで躓いてなんていられませんよ、と小さく返答した彼女は力強く笑った。
守りたい、この笑顔。
「それでは一応ルールを教えておいてあげますねぇ?まぁ、見てお察しでしょうがあの的を射抜け、という物なのですがぁ?
……ただこの腕試しでは直接的な魔法の使用は禁止されてるんですの、風の流れを読んだり等の補助魔法は許されてますがねぇ~~」
「……ちょっとそれは流石に条件がこっちに寄り過ぎなんじゃ――」
挑発するようにクスクスと笑いながら補足するアグラリエルにしびれを切らしてフィンが口を挟む、
が、言い切る前にネルに手で制される。
「大丈夫だから。見てて、フィンちゃん」
ネルがアグラリエルに向き直る。
「――道具は何を使えばいいんでしょうか?」
「ああ、道具はお好きな物を小屋からでも、使いたいのでしたらその辺に落ちている小石でもなんでも使っていただいて宜しくてよ」
「なるほどです、それじゃあお言葉に甘えさせて頂きますね。」
そうネルが告げるとまっすぐある方向に歩いて行った。
そしてあるエルフに声を掛ける。
「先生、そのナイフをお借りしてもよろしいでしょうか?」
ネルは講師役のエルフの腰に下がっている、解体用の少し大きめのナイフを指し尋ねる。
「あ、ああ……構わないが…………」
先生はほとんどの大人のエルフの例に漏れずあまり関わり合いになりたくないようでナイフを渡し後ろへ下がる。
「……少し時間を頂きますね。」
ネルはほんの十数秒、ナイフの重心を確かめるかのように持ち手の位置を調整し、「よし」と頷く。
ブンッ
と、右手で持ったナイフを空中に投げ、強く回転のかかったそれを左手の小指で受け、勢いを殺さずくるくると手で回す。
右手、左手、そしてまた中空へ。まるでステッキを自在に操るマジシャンのような、見事な演舞だ。
「いきます」
ピタ、と身を屈め左手を前に、右手に持ったナイフを肩口のあたりで持つ。
ピリッとした緊張感がある。さっきまでの彼女ではない。
「ふッ」
短く、呼吸を切るように力を込めナイフを投擲する。ナイフは驚くほど速く、一直線に飛んでいき――
ガサッ
――的の端をずれて奥の林に消えていった。
「「「…………」」」
ネルのナイフの扱いからただならぬ雰囲気を感じていた生徒たちに同様が走る。
え?外したの?どうゆうこと???どうしちゃったの??えっっっ?!ネルさん???マジぃ?!?!
――そしてその中で内心フィンが一番ビビっていた。
「……ふふ、あははは!!!なんですの?!今の!!もしかしてさっきまでのは見掛け倒しだったんですのぉ~?
ふふっ私、耐えられそうにないですわ!!フッフフ!ブフゥ!!!」
アグラリエルが下品に笑い出す。
くっそぉ……!
自分のことでもないのにフィンは悔しくて拳を握りしめる。
「いえ、狙いは外してませんよ」
――ふいにネルがそう告げる。
どういう事だ、と生徒の中でざわめきが起こる。
「いやいやいや、外していらっしゃいますよ?ネルルースさん、あ、もしかして、的が見えていらっしゃらなかったんですの??w
あぁ、見えてなかったのはもしかして現実の方でしょうかねぇ??ぶふぅッ!」
アグラリエルの隠しもしない嘲笑の言葉にネルは涼しい態度で口を開く
「なるほど、見えていないんですね。なら回収してきますね」
そんな言葉を残してガサガサと林の中に入っていく。
一体全体、どういうことなのだろう?
ほんの数刻してネルが帰ってくる。その手には――
「「「あっ」」」
首筋から胸のあたりにかけてナイフの突き刺さった野ウサギを持っていた。
す、す……
「「すっげーーー!!!!」」
フィンが声に出す前に、生徒の子どもたちが大声ではしゃぎだす。
「すっごくない?!どうやってやったの?」
「かっっっっっっこいいいいいい~!!!」
「やり方!やり方教えて~ネルルースのおねえちゃん~!」
「いいないいなぁ!僕も教わりたい~~!」
「わ、私も教わろうかな……!」
ほんの数刻前までの拭えそうになかった距離感が、今はもう無い。
というか、大人気である。
わかる。俺だってあんなかっこよかったら惚れてしまう。
「わわわ、あ、ありがとうございます!私で良ければいくらでも!どんとこいです!へへ!!」
子どもたちの予想外の応酬に多少の戸惑いを覚えつつも笑顔で対応していくネル。
そんな彼女を見てなんだか、とてもあたたかい気持ちになる。
ネル、よかったねぇ……
あぁ。なんというかこれが父親目線的な感じの奴なんだろうか。
しみじみとした顔になっている僕にネルが近づいて来る。
「フィンちゃん!今日のお夕飯はお肉料理にしましょう!私、腕によりをかけて作りますから!」
眩しい程の笑顔でそう声を掛けてくる。
あ、これ父親目線とかじゃないわ。なんかズキュンと来たわ。恋だ、これ。
尊みが深すぎるかよ……
人生の幸せゲージが振り切れているフィンとは対照的に、、
人生ゲージがズタボロになっている人物、アグラリエルはワナワナと震えていた。
「このままじゃ……済ましませんわよォ…………!」
この屈辱に復讐を誓うように、握り拳に血を滲ませていた。




