*埋まらないPeace feat.朝川留衣
今日から新学期、二年生。
クラス替えも教室替えも先生替えもウチの学校には無いので、たった一週間前まで見ていた景色がこの席からは見える。
まぁ、席は一旦出席番号順に戻されるから、今現在ここはアタシの席では無いのだけれども。
……はぁ~~~~~~~っ、暇だ。
アタシはそのままバタンと机に突っ伏す。
未だ朝早いせいか、教室には誰も居なく、アタシ一人だ。
漫画も持ってきてないし、勉強なんてやる気出ないし、一体私はどうすれば良いんだ。何だ、神様は私を暇殺したいのか。(瞬殺じゃないぞ、暇殺だぞ。)
さっき校門の方でいつメンを見つけたのに、楽しそうにイケメン君と話していたから話し掛けなかった事を今、すんげぇ後悔してる。
……誰かっ、誰か来いっ!
祈る様にしてドアを見詰めていると、パタ、パタ、と足音がしてきた。その音は段々大きくなってくる。
そして開かれたドアの目の前に居たのは━━━━
「……あ、あぁぁぁぁあぁっ、」
「……」
ヘタレの生斗だった。
チッ、寄りによってつまらん奴が来たわ。……誰でもいいっつったのはアタシだけどさ。
……勘違いしてるかもだけど、さっきうろたえたのは、アタシじゃなくてあいつですから。
アタシを見て赤面し、狼狽しながら二歩後ずさりした生斗は、そのままどこかに走り去った。
何だあいつ、あだ名の通り本当にヘタレだなぁ、なんて思ってたらまた戻って来て、今度はずんずんとアタシの方に近付いてくる。
え、何だよ何だよ、超怖いんですけど。
彼はアタシの目の前で立ち止まると、直立不動で叫んだ。
「朝川さん!!」
「な、何だよ……」
「え、えと、同じクラスの佐倉生斗です!」
「知ってるよ。昨年も同クラだったじゃねぇか。」
「通称ヘタレの生斗と呼ばれています!」
「自分で言ってて恥ずかしくなんねぇのか、それ。」
「ああ、あの、おっ、おはっ、おひゃよっ、おっはっ、およよよよっ……」
「おはような。はい、おはよう。んでどうしたよ、告白か。」
「こ、こここここここ告白だなんて、まだする気はななななななな」
「うるせえ。お前にそんな度胸が無い事は知ってんだ。で、何だ。」
「あ、あぁぁぁぁあの!」
「おうよ。」
「そこ、俺の席ですっ!!!」
……本当、ヘタレ過ぎるな。
この一言を言う為にどんだけ掛かってんだよ。
「あぁ、ここお前の席だったのか。すまん。」
「いっ、いえ……っ」
……だが、もしアタシがさっきの生斗の言葉を録音しててそれを聞かせたら、どんな反応するんだろうな、なんて事を考えながら席を立つ。
どもりも凄かったが、五つ目のセリフはちょっとやらかしたな。否、ちょっとどころじゃないか。
アタシは生斗の席から移動して、自分の荷物は掛け終わっていたアタシの席に座る。……つっても、隣だけど。
だが生斗がいつまでも座らないので、「どうしたよ、生斗」なんて適当に声を掛けてみたら。
「あ、朝川さんが座ったすぐ後に座ったら、気持ち悪いなんて思われるんじゃ、みたいな……って、えっ、今、俺の名前呼びました!?」
……はぁ、面倒くせぇ。
良く居る漫画のヒロインは、誰かからの恋心なんて言われるまで気付かない。
でもアタシはつまらない程にあっさりと、簡単に、気付いてしまった。
結構前に。
佐倉生斗は、アタシに恋をしている。