*秒速五センチメートルの再会 feat.小野桃花
ひらり、ひらりと美しく、桜の花びらが舞い落ちる。
手のひらをそっと差し出すと、淡い桃色が一つ、舞い降りる様にして乗っかった。
春、新学期。
この間入学式を済ませたばかりだと思っていたのに、もうあれから1年も経ってしまったらしい。
時の流れは早いなぁ、なんておばさんじみた事を呟き、ぼ……私も苦笑した。
……この癖も早く直さなきゃだな。
手に乗せていた花弁をそっと手放すと、花弁はまたひらひらと落ちて行く。
焦れったくなる程にゆっくりと。
いつの日にか友達が言っていた、桜の花弁が落ちる速度。遠い、過去の記憶。
君の顔は幾らでも浮かぶのに、君のその言葉はまるでノイズがかかった様に思い出せない。
ねぇ、あの時君は何て言ったんだっけ。
忘れちゃったからさ、教えてよ。
未だ早いせいか人気の少ない校門の前で、私は1人、唇を噛み締める。
この時期になると逢いたくて堪らなくなる、私の、……僕、の、たった一人の幼馴染。
「会いたいよ……っ、凛……」
「━呼んだ?」
不意に聞こえたその懐かしい声に私は思わず、長いツインテールが乱れるのにも構わずに勢い良く振り向いた。
彼は私の前髪にそっと手を伸ばして触れると、その手を私に差し出す。
「知ってる?桜の花弁が落ちる速度って、秒速5センチなんだよ。」
手のひらに乗せた花弁をゆっくりと落とすと、雪村凛は出会った日と同じ暖かい笑顔で、美しく笑って見せた。
「久しぶりだね、桃花。」