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第8話 信忠の苦悩

織田信忠は怒っていた。それは武田勝頼は自害に追い込んだものの、その息子である武田信勝を未だに捕まえられてないことである。

武田家が長年治めてきた甲斐国の領民においては武田家への思いは強い。これが嫡流である勝頼、信勝が共に命を落としていたなら武田家に由来があるものを大名として祭り上げておけばある程度不満などは抑えこめる予定だった。


「一益、信勝の遺骸が無かったと申すのか」

「申し訳ございません。天目山周辺や女どもが身投げした川の下流も調べましたが彼の遺骸はありませんでした。それに捕らえた武田の旧臣の中には勝頼が『信勝には小田原に和睦の使者として遣わした』と言っていたと申す者が複数おりました」

「少なくとも、勝頼がその話をした事は事実であろうな。問題は本当に小田原に向かったのであろうか。疑問が残るの。今後については大殿の指示を仰ぐ必要があるな。信茂の処遇も含めて聞いて参れ」


翌々日、滝川一益は勝頼の首を携えて信濃・藤沢城で信長の御前にいた。

「であるか」

「申し訳ありません。信勝の行方は未だ分かりません」

「それでわしに指示を仰ぎに来たと申すのか」

「信忠様も勝頼が『信勝を小田原に遣わした』と話したのは事実としても、その話自体が眉唾物であると申しており大殿にご意見を伺うのが良いのではと申しておりました」

「ならば武田の旧臣の中に匿ってるものがおるやもしれぬ徹底的に調べよ。また、上杉、北条にも彼を隠しているのではと嫌疑を掛けて場合によってはそのまま攻めてしまおうぞ」

「はっ」

「あと、信茂であるが大勢が決した時点で主家を裏切るとは、武家の風上にも置けぬ。それに相応しい罰を与えれば宜しい」


2日後、一益は甲斐善光寺に本陣を置いていた信忠の元に駆け戻った。

「して大殿の御指示は如何(いかが)であった」

「まずは信忠様のお考えと一致したであろうのは信茂の処刑です。特に大勢決してから主家を裏切る者に慈悲を与える気は無く、武士の名誉である切腹すら許さぬとの事でした」


この翌日、信茂は磔にされた。一族郎党もそれに連座する格好となった。


「あと信勝の件にございますが、旧臣たちが匿ってるやも知れぬから旧臣を徹底的に調べよと。そして北条、上杉には疑いを掛けて、満足がいく回答が貰えない場合は新たな一戦も止む無しとの事」

「そうなると確認する必要があるな。とりあえず、北条氏政と上杉景勝に書状を送り、信勝の行方を調べよ」

「武田家旧臣への扱いはいかがしましょうか、見つけ次第処分していきましょうか」


信忠は首を横に振り、新たな書状を一益に見せた。

「これは」

「まずは読んでみよ」

「・・・これは松姫様からの」

「ああ、わしに会いたいという嬉しい便りであるが、併せて武田家旧臣を救って欲しいという嘆願だ。わしはその嘆願に応えてやりたい」

「しかし大殿の指示とは真逆よの・・・」


信忠の苦悩は始まったばっかりだった。

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