第6話 沼田会議(前編)
信勝と昌恒は上野国を歩いていた。
「ノブ、これから先をそろそろ聞かせて欲しい」
「人目は・・・無いな。奥州にどう入るかだが、まだ雪が残る奥州に入るのに山岳を突破は厳しいであろう。そうなると街道筋を歩くしかない。しかし、いつ嫌疑を掛けられてもおかしくない。この時期に奥州に向かってもおかしくない者と言えば何が思いつく」
「商人か僧侶でしょうか」
「考えはいい所まで来てる。わしが思うのは山伏よ」
山伏といえば修験者とも呼ばれ、この時代忍びの者が変装することも多かった。
「しかし、かえって目立つのでは」
「山伏が多い場所から始めればおかしくあるまい。迦葉山よ」
「なるほど」
「そこで準備を整え、羽州三山に修行に行くと言えば誰も疑わまい」
迦葉山は迦葉山信仰という言葉もあり関東では知られた霊山であった。そして出羽(羽州)三山は山岳信仰の聖地として現代でも知られている。
「マサは感服いたしました。そうなると向かうは」
「迦葉山の近くにある沼田城下よ。真田殿に気づかれ厄介な事にならぬように注意しながら進むぞ」
信勝の注意は無駄であった。この時点で信尹の手の者が行動を見守っており、その動向は信尹や昌幸の元に届いていた。
2人が沼田城下に入り山伏装束を買おうと店に入るとそこにいたのは信幸と信繁だった。
「信勝様そして土屋様ご無沙汰しております」
信勝と、真田兄弟の間に身を呈すように昌恒は割って入り、刀の鍔に指を掛けた。
「我らは信勝様、土屋様に危害を加えたりしようとは思っておりません。ただ、父昌幸が信勝様と話をしたいとの事。ご足労を願います」
「真田の領内である沼田城下に来てしまったのは我が責任よ」
4人は店の裏口から出て沼田城に入っていった。
「信勝様、この様な無礼誠に申し訳ない」
沼田城の書院に入ると武田家の重鎮であった真田昌幸と信尹、さらに城代である矢沢頼綱も土下座をし、一緒に入城した信幸、信繁も土下座をしていた。
「頭を上げて頂けないか。話も出来ない」
「申し訳ありませぬ。当主のお言葉に従い頭を上げさせて頂く」
信勝と昌恒に緊張が走った。信勝が当主を引き受けたことは今は亡き勝頼とお春、それに2人しか知らない話のはずである。
「信勝様が新府城を立たれた翌朝、勝頼様より聞き出しました。この事はいまここに居る者以外には知りませぬ」
「であるか」
「勝頼様は皆には小田原に信勝様が向かわれたと伝えられておりましたが、その後勝頼様と別れの挨拶の際に人払いして頂いた場所で、当主就任の件と併せて、信勝様が恐らく北に向かわれたのではと話をしておりました。信勝様は実際どちらに向かわれるのでしょうか」
暫くの沈黙の後、信勝は意を決し口を開いた。
「我らは北に向かう。その場所は・・・」
すみません。1話でいく予定でしたが刻まさせてください。
後半は夜にでも上げられればと思います。