第5話 上州に交差するそれぞれの戦略
何故、信勝は奥州を選んだのか。
それは現代を生きてきたタケルの知識と思考の結果であった。
佐久で昌恒から進路を問われた時、選択肢は3つあった。
一つは現在武田と同盟を結んでいる上杉景勝だ。上杉家なら謙信公が遺した気風があり信勝を匿ってくれたであろう。但し、越中では柴田勝家からちょっかいを出され、信濃が信長の手に落ちたらそこからもプレッシャーを掛けられさらに北条とも小競り合いは絶えない。
勿論、家督争いがようやく一段落した段階だ。景勝が守ろうとしてくれても誰が信勝を織田方に売り渡してもおかしくない。
次に岩櫃城に誘っていてくれた真田昌幸を頼ることである。忠誠心も高かったと伝えられてはいる。
ただ、現代に例えれば、武田家など大名を自動車会社に例えるなら真田家はメーカー系の中堅部品メーカーである。武田自動車というメーカーが倒産をしたときにその会社を見捨て新たな会社と取引開始するのは当然だ。
新たな取引開始にはお土産。その土産そのものが信勝になる可能性が高い。
そうなると織田の影響が直接は及んでいない奥州しか選択肢が無かった。
「マサ、そろそろ馬を捨てるぞ」
「何故でしょうまだまだ奥州までは距離はございますぞ」
浅間山の噴煙を横目に上野の国を進んでいた。
「このあたりは武田、北条、上杉にその時の情勢をみて付く土豪が多い場所だ。彼らにも武田が追い詰められているという状況は耳に入っているであろう。さすれば、ここから先、いつ詰問されてもおかしくない。特に信濃方面から馬に乗って来たとなるとその可能性は跳ね上がるであろう」
「しかし、どうされるのですか」
「まあ、黙って付いて来い」
上野・宮崎城下で馬を売り、町民風の衣服を買い歩を進めた。道中で武田家が天目山で滅んだという話が耳に入った。涙を堪えて先を急いだ。
一方、新府城で勝頼と別れた真田昌幸らは岩櫃城にたどり着いた。彼らにも武田家滅亡の話は届いていた。
「これから真田家はどう立ち回るかだが、わしは信長に付くしか無いと思う。2人はどう思う」
昌幸から問われたのは、信幸と信繁であった。
「私は父上のご意思に従います」
「私も従いますが、織田は武田家にとって恨みの対象、家臣や土豪たちはついて来るでしょうか」
信幸が素直に従ったのに対し、信繁は疑問を呈した。
「信繁、確かにその通りだ。しかし、上杉や北条が織田に勝てると思うか」
「そ、それは・・・」
「という事じゃ。信長に対し良い印象を持つものは少ないだろう。かと言って織田に対抗できる勢力は今の日本にはおらん」
「それは天下を織田が取るということでしょうか」
「信幸、その結論はまだまだ先じゃ。ただ現時点では最も可能性が高いだけだ」
3人が話をしてた部屋に来訪者が来た。
「信尹様の使いの者が見えられました」
「うむ入れ」
「信勝様、上野国を東に進んでいる模様です」
「あいわかった。信尹にも沼田城に入るように伝えよ」
「御意」
信幸と信繁は驚き、昌幸の顔を見た。
「信勝様は小田原に向かったのでは」
「信勝様を迎え入れれば、真田としては大きな切り札になりますぞ」
「わしは勝頼様と別れる際に2つの事を聞いた。新府城を離れる前に武田家の当主は信勝様になった事。そして信勝様は恐らく北に向かわれると」
「北といえばやはり上杉でしょうか」
「信幸、話を最後まで聞かんか。勝頼様からお願いされたのは庇護でも護衛でも無い。もし真田領内を通過したときには見て見ぬ振りをして欲しいと」
昌幸がゆっくりと茶を飲み干した。
「父上、では信勝様には接触されないのでしょうか」
「いや、上杉に向かうのかそれとも他の道を選ぶのか分からないが1度話をしておきたい。少なくとも信勝様を捕らえ、信長に売るような事はせぬ。信幸に信繁、信勝様と接触し1度我らと話をする機会を持ってくれるように話を付けてこい」
「「はっ」」
真田家も生き残るための戦いをはじめた。
予想外のブックマークの多さに驚いています。遅筆な自分にとって良い意味でプレッシャーになってます。頑張ります。
※第3話とタイトルが被っていたので変更いたしました(本文は変更しておりません)