第25話 初陣
政宗は既に初陣を済ませており、その時の勇猛果敢な姿は南奥州では知れ渡っていた。成実の電光石火の激しい戦いっぷりもまた知れ渡っていた。
政宗の知恵袋である片倉小十郎景綱の名も知れ渡っており、伊達の今後の躍進は大凡の予想の範疇だった。
たった1つの欠点は竺丸と義姫による家督を政宗から奪う動きだった。家中で揉めていた場合、なかなか外に打って出るに際しても大胆な作戦は取りづらくなると見られていた。
しかし、今回元服した伊達政道が政宗の臣下であると宣言し、義姫も政宗の家督相続に同意したことから死角は無くなったと見られた。
そして迎えた政道や信勝の初陣に際して最上も援軍を送る等、次世代の伊達と共に歩く姿勢を見せたのは奥州の豪族にとって大きな衝撃だった。
政宗の嫁・愛姫の実家である田村家や芦名家に近い存在であった大内定綱らも伊達陣営に参戦や援軍を送った。
一方、相馬側は芦名や畠山などの支援を期待していたが、伊達と最上が手を組んだのをみて決戦は時期尚早と判断をされて、食糧などの支援しか受けられない状況だった。
しかし相馬としても金山を伊達に取られると本拠地である中村城(現・福島県相馬市)の喉元に刀を突きつけられる形になる。
「して、金山城を取り囲んで見たがここからどうする」
正直、力攻めしても勝てることはほぼ間違いないだろう。金山城は小高い丘に建てられた城。しかし籠城をされてしまったので騎馬隊の機動力も今回は生かしようが無い。
部隊を率いる実務担当である伊達成実、片倉景綱そして信勝は話し合った。
金山城の裏門にあたる位置に居た部隊を移動させ、敢えて囲みに隙を作った。
そして信勝はこれまでは伊達政道の家臣ということで、伊達の旗だけ掲げていたが、その日『風林火山』と『武田菱』が掲げられた。
小高い丘の上にある城なのでこちらからも人の動きが見ることができる。
兵士が『風林火山』の旗を指さしてまた上役を連れてくるなんて様子が見えた。
「信勝は狡猾やな」
にやにやと近づいてきたのは成実。
「滅んだ家だがまだまだこんなに驚かす力があるなんてこっちが驚きですよ」
嘘である。正直、予想の範囲内である。東国に力を広げてた武田に対して畏敬の念があるのは想像していたとおりである。
「で、この時を狙って使うんやな」
成実の視線の先には片倉・武田の合同部隊である鉄砲隊である。
まだ数十梃しか無い為、長篠の合戦のような使い方は無理だ。それでも二交替で城に向かって撃ち放った。
まだまだ奥州では数多く火縄銃が流通している訳ではない。小城の兵士達がパニックになってるのも伺えた。しかし狙いは違った。
『馬が、馬が暴れてる』
金山城内に飼われていた馬は聞きなれない音にパニックし暴走していた。伊達でも火縄銃の練習を始めた頃には馬の暴走に手を焼いた。
しかし、硝石の製造法を政宗に伝え、米沢で製造が始まってからは、訓練の頻度も上げて馬もその付近で音に慣れさせた結果伊達の騎馬隊は落ち着いていたが、相馬の馬は違った。
音から逃げようとついに馬が裏門を破壊して逃げていった。同じく音に驚いた雑兵も我先にと逃げ出した。
こうなると戦い継続などは無理である。金山城に居た者たちは裏門から逃げていった。
ほぼ無血開城に近い形で、信勝らは初陣を勝利で飾った。
今回は説明文章が中心ですね。(戦闘シーンは今回ほぼ無かったですが、実際の戦闘シーンになったら説明文章をどこまで書くか悩むと思います)
部門別上位キープありがとうございます。その期待に今度は応えられるように。




