閑話その5 諏訪大社事件(その3)
執筆再開します。
諏訪大社では、事前に森蘭丸や明智光秀などによって手配された料理が並べられていた。とはいえ内々での会合であったので酒の肴となるような料理が中心であった。
酒は他所酒と呼ばれるもので、現代の地酒の源流である。この日も北条家から江川酒などが届けられていた。甲斐は米どころでは無かった為、名を馳せた酒はまだ無かった。
部屋に揃ったのは、信長、信忠、光秀、家康。それに離れた場所に護衛として服部正成(半蔵)の5人であった。
4人で確認したのはまず東国への対応である。
「北条は今のところ我らに向かって手を出すことは無いことは確認した。織田や徳川を敵に回しながら、関東を平定するのは困難であろう。上野は織田と北条が双方に切り取り放題として下野は北条の管轄下である事を確認する形になりそうだ。家康殿と一益で睨みを効かせて、戦功を求める森長可らに上野に侵入させれば上手くいくであろう」
信長は北条対策に自信があるようだ。また家康も駿河を安定化する時間が必要な為、北条と争わない事については現時点では不満は無かった。
その後も上杉対策は柴田勝家に任せることや上杉を滅ぼした後に奥州征伐に向かう事が確認された。
「しかし、東国征伐は一時手を緩めるぞ」
信長の発言に対し信忠、家康も『やはり、そうなるか』と思い頷いた。
毛利征伐が遅延している。調略上手の羽柴秀吉を総大将にして攻めているが、予定通りに進んでいないのは事実であった。
秀吉としてもここで出しゃばらずに信長の出陣を持って確実に事を進めて、且つ『信長様が来てくれんと、猿めには中々上手くいきません』等と持ち上げるのだろう。それでも毛利の抵抗は大きいのは事実であった。
四国征伐も丹羽長秀らが準備を進めてるが東国でのもたつきが影響してるのか予定より遅れていた。
「長秀も寄る年波に勝てないのか、もたついている。光秀、明日より諏訪から四国に向かい指揮をしてこい」
そして信長も光秀が直ぐに頷けない理由も分かってた。
「光秀、長宗我部には土佐・阿波二国を安堵する事を条件に織田に従うように説得して参れ。そしてこれに駄々を捏ねるようなら一族郎党踏み潰すとも伝えとけ」
「はっ、承知しました」
信長は以前長宗我部には『四国切り取り放題』として明智を通じて交渉していたが、その後土佐一国と阿波半国と伝えて揉めていた。そして光秀はその板挟みになっていた。
長宗我部からは『阿波半国と一部土佐に通じる主要部は認めて欲しい』と声があった。信長の決断はそれより織田側が譲歩する内容なので十分交渉成立は可能と光秀は判断した。
「丹羽殿が長宗我部を攻撃する前に纏めて見せますので、すぐさま四国に出立します」
光秀は急ぎ諏訪大社を後にした。
残った信長、信忠、家康はその後の九州征伐などについても見通しを話した後は、普段ゆっくりと話せない信長・家康の幼少期の思い出話など他愛もない話をしていた。楽しい話であるので信長も普段多くは飲まないが酒が進んでいた。
信忠は良き頃合いと判断して一旦中座した。
信忠は別室に待機していた松姫の下に向かった。
「難しい話も終わり良き頃合いかと思う。父に結婚の許しを得ようと思う。今夜は父も落ち着いてるから下手なことにはならないと思う」
「そうであることを願ってます。信忠様と我が身を守るため、日向も連れていって宜しいでしょうか」
「うむ。勿論、松の身はわしが必ず守るがな」
一行は運命の場所に歩を進めた。




