閑話その3 諏訪大社事件(その1)
閑話その2 家康、岡谷城にて と 第23話 信長の死 の合流点とお考え下さい。
信勝は、信長の訃報に触れた数日後にその真実を知った。
「信勝様、信長は不慮の事故により殺害されたとの事でございます」
佐助は開口一番そう口にした。
話は、事件の数日前に遡る。
織田信忠と松姫の間のやり取りを日向達が取り持ちそして約2ヶ月後、ついに諏訪大社での評定が行われる数日前に2人は若神子城にて再会することが出来た。
「信忠様、ご無沙汰しております。お会い出来て嬉しいです」
「松姫様、ご無事でなによりでした。此度は織田が武田家を滅ぼすこととなってしまい申し訳ない」
松姫は軽く首を横に振った。
「これも戦国の世であるからこそ止むなき事。信忠様が御身を責められる事はございません」
「しかし・・・」
「どこかで違う結果が出ていれば、織田家を武田が滅ぼしていたかも知れませんし、それは致し方ないことです。ただ今、私が信忠様にお会いできたのは事実です。それを嬉しく思います」
「そうですね。もしかしたらもうお会いすることは叶わないとも思っておりました。美しくなられた松姫様に再びお会い出来たのは感激です」
「うむ。父上に評定後にお会いして、正式に結婚の許しを得よう。元々婚約関係でもあったし問題なかろう」
信忠は、この結婚が甲斐と旧武田家臣団の人心を取り戻し、対北条・上杉を見据える上でも大きいと思っていた。勿論、それ以上に目の前にいる松姫への愛も深かった。
「わしは岡谷城で家康殿と打ち合わせをしてから諏訪大社に向かう。その日の夕刻に父上に話をするのでそれに合わせて諏訪大社に来て欲しい」
「かしこまりました」
諏訪大社に向かう前日、信忠と家康は岡谷城で会談をしていた。
「駿河に南信濃・南甲斐では如何でしょうか」
「それはいささか厳しいかと。これまでの経緯も考えると駿河一国となるでしょう」
信忠自身には領土の配分権は無いが、織田家当主と名目上はなっている為、その言質は重い。
「これからは、上杉や北条と対峙しなくてはならない。駿河に家康殿、甲斐に滝川で北条に睨みを効かせて頂き、北陸の柴田と北信濃の森で上杉を睨み、同時に真田などの武田家旧臣を取り込めるように立ち回らねばならぬ。家康殿には北条との対峙をお願いすることとなるが、北条征伐が成った際には、しかるべき領土を与えられるように我も父に強く進言することをお約束する。なので、今回は駿河一国で納得して頂きたい」
信忠にここまで言われると正直、家康としても駄々をこねるのは得策では無いと理解できる。
「わかりました。明日は駿河一国という流れで信長様にお話しよう」
「それが宜しいかと。それで、家康殿に一つお願いがあるのだが良いだろうか」
「どのような」
信忠から信長に松姫との結婚の許しを得るのでその場に同席して欲しい旨を家康は聞き、それを快諾した。次期織田家当主との縁が深まる絶好の機会であるからだ。
翌日、評定が行われる上原城から共に諏訪大社に向かう事を確認した。
夜が明け、運命の1日が始まった。




