第18話 揺れる米沢城(その3)
信勝と鬼庭左月斎は寺の庭で対峙していた。
タケル自身は剣道を中学校で授業で習った程度だったが、幸いにも信勝自身はみっちり稽古してたようで、身体が覚えていたようだった。
ただ、左月斎に隙を見つける事は出来ず、竹刀は交わらないままであった。
一歩でも動いた瞬間にヤられると本能が訴えているのだ。
「そちらから来ぬなら爺から行かせていただきますぞ」
言うや否や、信勝との距離を詰めて攻めてきた。
一太刀、二太刀と何とか信勝は凌いだが一分も持たずに一本を取られた。
「左月斎様、ご指導ありがとうございました」
「いや、信勝様もかなり鍛えていらっしゃた、これからが楽しみですな」
「もし、伊達家に仕官が叶った際にはご指導を賜りたく思います」
「楽しみに待っておりますぞ」
政宗も交え軽く談笑してると、第二弾の早馬がやってきた。
「左月斎様、やはり一稽古されておられたか、今は若と信勝様を城にお連れすることが先ぞ。しっかりして頂かないと」
「そう申すな宗実殿、貴殿と違って老先短くなるとせっかちになってのぉ」
米沢城に一向に戻って来ない政宗らを心配して輝宗に遣わされたのが、白石宗実であった。
「宗実、そう左月斎を責めないでやって欲しい。爺も信勝殿の実力を見たかったのであろう」
「若のおっしゃる通りでございます」
「して爺の評価はどうであろう」
左月斎は、一瞬、顎に手を当て考えると自分の中で整理がついた様で、小さく頷いた。
「小十郎様よりは強く、されど成実様には及ばないといった所でしょうか。ただ、若と同じように当主になる立場だった以上最前線で一対一で相対する場面が無いようにするほうが大事だったでしょうから、十分にお強いと断言できます」
続いて宗実は政宗に問いかけた。
「若、信勝殿の学はどうでありましょう」
「うむ。かなり学がある。既に奥州を制する為の秘策も貰った。政の力量は分からぬが、わしが勝てるかは微妙なとこであろう」
その会話を聞いていた虎哉和尚が近づいてきた。
「学は政宗様とほぼ同等。私が信勝殿の学問を見させていただいた時からは時が流れておりますので、一概には言い切れませんが、物事に対する視野は我々を凌駕してるやも知れませぬ」
「続けよ」
「政宗様や我々はこの戦国を今、どうやって生き残るかを考えております。恐らくは殆どの者がそうでありましょう。それに対して信勝殿はその先を見据えている様に感じます。恐らくこの世でそんな事を考えているのは織田信長くらいかと思っておりました」
虎哉和尚は信勝を高く評価した。
「信勝殿は高望みをしておらん。信勝殿が伊達の末席に加わる事の効果の方が、大きく感じるのは儂だけか」
政宗の言葉に異を唱えるものは居なかった。
「信勝殿、米沢城まで行きましょうぞ」
政宗は信勝に声をかけた。




