第16話 揺れる米沢城(その1)
大変遅くなり申し訳ありません。
「殿、申し上げます」
政宗の傅役であり、資福寺に同行したはずの片倉小十郎が米沢城に馬を飛ばして、さらに見知らぬ山伏姿の男がついてきてるのだから、城内の者は警戒した。
「この者、甲斐武田家の遺臣である土屋昌恒と申す者。素性は虎哉禅師が見知っており、禅師も間違いないと申しております」
「ふむ。仕官希望なら鬼庭や遠藤に面通しすれば良いが・・・」
「いえ、この話には続きがございます」
「うむ。続けよ」
「甲斐より来たのはこの者だけではござらぬ。武田家当主であった武田勝頼殿の嫡男、信勝を名乗る者も来ており、現在資福寺にて虎哉禅師ら監視のもと、待機させております」
伊達輝宗をはじめ、伊達家重臣も身を乗り出した。
「して、その者は信勝殿本人と確認出来たのか」
「いえ、虎哉禅師も信勝を最後に見たのはすでに10年前。同じく10年前に会ったのが最後であった土屋昌恒殿ですが、当時昌恒殿はすでに10代後半。しかし、信勝殿は6歳程度。残念ながら見かけで分かる訳では無いと申しておりました」
「そうか・・・」
ため息が広間に漂った。その次の瞬間だった。
「輝宗様、お初にお目にかかります。武田家遺臣土屋昌恒でございます。輝宗様にご覧になって頂きたい書状がございます」
昌恒は、輝宗付の小姓に未開封の書状を渡した。
それを受け取った輝宗は書状を開くと、しばらく沈黙が支配した。
「と、殿」
沈黙を破ったのは遠藤基信であった。基信は輝宗を外交や財政で支える右腕であった。
「基信も読んでみよ」
「失礼します」
その書状には、信勝が武田家当主となったこと。可能ならば、武将として末席に加えて欲しいこと。咎無く織田や徳川に引き渡さないで欲しいこと。もちろん、特別待遇などは求めず、信勝が功をあげたらそれに報いて頂ければよい。とあった。
「花押はどうであったか」
外交に携わる基信は過去に書状のやり取りをした大名家や武将などの書状を保管しており、その中にあった1枚と照らし合わせてみた。
その書状は勝頼から武田家と上杉家が同盟を結んだ所謂、甲越同盟について知らせるものであった。信玄が生きていた頃は上杉の背後から伊達家に牽制をお願いされていた。上杉家への牽制は伊達家が北条家とも友好関係を築いておりそちらからも依頼されていた。そして、北条家出身の上杉景虎を支援してた。一方で武田家が同盟結んだのは上杉景勝である。結果としては、北条が支援出兵を試みたが武田家に阻止され、むしろ上野での支配域を狭めてしまう程だった。
確かに伊達家と武田家は利害は相反していたが物理的な距離もあり、定型文的に「今後とも良い間柄で~」とお茶を濁すような書状を送り返していた。
「花押は相違ございません」
「となると、資福寺に来ている信勝殿は本人という事か」
実際、信勝自身も身につけていた刀のつばには武田一門でないと許されない武田菱が入っているなど、他にも証明する事が出来るものも多いが、如何せん奥州まで武田家の細かな規定などは伝わっていないと考えた信勝は、土屋昌恒の存在と勝頼から受け取った書状に賭けることにした。そしてその賭けに勝ったのである。
「武将として伊達家の末席に加わりたいとあるが、信勝の考えや力量を知らぬといけないの。誰か資福寺に早馬を出し、武田信勝を連れて参れ」
輝宗の声に反応した小姓らが城から飛び出して行った。
ここから2回ほど説明回(登場人物紹介)が増えると思うので宜しくお願いします。




