第1話 転生した瞬間詰んでいる
俺、後藤タケルは死んだはずだった。
久しぶりに取れた連休。たまには温泉で癒されようと1泊2日の予定で山梨県内の温泉宿に向かって車を走らせていた。
残念ながらここ数年彼女もいないので、1人旅だが誰かに気を使うこともなく旅に行くというのも悪くない。
中央道を走っていると、斜め後ろからものすごいスピードでトラックが突っ込んできた。恐らく時速180キロを越えていたかもしれない。車線を斜めに来たトラックは俺の車の後ろに真っ直ぐにぶつかってきた。自分の車の加速にトラックの加速が合わさったスピードのまま防護壁に車は吸い込まれていった。
そう、俺は死んだはずなのだ。
「若、お気を確かに」
見上げた天井は病院とも、アパートの一室とも違う。むしろ田舎の本家に似ている。
「あれ、ここは」
「若が落馬し、あわてて城に連れてきました」
俺の事を『若』と呼ぶものは、時代劇で見るような袴に刀を差していた。
「城ですか」
「そうです、我が武田の本拠地新府城にございます。信勝様は恐らく落馬の影響で記憶が混乱されていると思います。新府城を出立するのは明日になりますので、それまでご静養ください」
「ああそうさせてもらおう。ちなみに貴殿の名を頂いてよいか」
「小山田信茂にございます。明日は我が居城岩殿城に、お連れ致します」
「うむ」
襖が閉まった瞬間、俺は血の気が引いた。昔『信長の○望』から戦国時代に興味を持ち色々調べていた。
ここは新府城。つまり武田信玄が亡くなり、長篠の戦いで武田が大敗し、防衛のために躑躅ヶ崎館から本拠地を移した城だ。
そして、先程までいたのが小山田信茂。
武田勝頼らを岩殿城に迎え入れると伝えるも土壇場で裏切った武将だ。
彼は俺を『若』と呼んでいた。つまり、まだ元服しておらず当主にもなってない。確か織田勢に山を囲まれたなかで略式で元服と当主就任の儀を行い、天目山の戦いが初陣となり討ち死にした武田信勝が俺なのだ。
このままだとあと数日で確実にまた死ぬことになる。
なんの拍子か分からないが、せっかくの命長らえたい。願わくば江戸時代を生きて迎えたい。
俺は武田信勝として生きる為の戦いを始める。